「夜の街」を支えるワンオペ薬剤師――深夜営業の薬局から見た、「震源地」歌舞伎町の景色【#コロナとどう暮らす】
調剤薬局は病院の目の前やすぐ隣に開局することが多いが、ニュクス薬局の場合、一般の病院とは営業時間が異なるという「ハンデ」がある。開業当初は、近隣にある夜間診療の病院は1軒だけだった。それが2軒、3軒と増え、常連客も増えた。中沢さんの読みは的中。キャバクラや性風俗、AV業界、ホストクラブ、バー、居酒屋、ホテル……歌舞伎町の「仕事人」たちの御用達となっていく。彼らの生活サイクルでは、昼間に営業する調剤薬局に出向くのは難しいからだ。
患者の大半はメンタル系
渋谷で夜の仕事をする20代の女性は、中沢さんの薬局に毎月通う。 「毎月薬にいくら使ってるかわかんないよ」 「こないださ、めっちゃ病んで、(ホストクラブの)担当にブチ切れちゃった」 「先生働きすぎだよ、ほんと。倒れたやつさ、強盗に襲われたとかめっちゃ言われてたよ」 薬のことからホストクラブでの話、そして中沢さんの健康状態まで、とりとめがない。女性は「先生優しいから、なんでも話しちゃうんだよね」と笑う。 「どこの病院に行っても、(薬をもらいに)来るのはここですね。ここがいいんで。友達もここに通ってます。病んでるとか、いっつも話してる。なんで話せるんだろう? 先生が聞いてくれるからじゃないですかね」
客の7割ほどは女性で、20代から30代が多い。この女性のように、「どの病院で診察してもらっても、ここで薬を処方してもらう」という常連客が大半だ。話だけして帰る客もいる。中沢さんは言う。 「そもそも夜の仕事をしていると不眠症になりやすいし、うつにもなりやすいんですよ。日光を浴びていないのもあるでしょうね。ここに処方せんで来る患者さんは大半がメンタル系。性風俗やAV、キャバクラ……わかっていてもストレスたまりますよね」
「歌舞伎町は村みたいなところですから。どこそこの誰々さんって言ったら、だいたいわかる。どんな薬を飲んでいるのか、前にどんな話をしていったのか。患者さんの顔を見れば思い出すし、会話の内容も薬歴に残すようにしています」 客との会話では、敬語をあえて使わない中沢さん。自分より若い客が多い土地柄、かえって距離感を生んでしまうからだ。 「昔の薬局って、こんな感じだったんじゃないんですかね。病院に行かなくても、まずは薬剤師に相談できる。暗い顔をしていれば悩みも聞く。最近、『駆け込み寺』みたいだって言われて、確かにそうだなと思いました」