琴ノ若の大関昇進「一発で決めたのはすばらしい」 音羽山親方が見た初場所、照ノ富士の復活は「予想できなかった」
現役時代は、右四つからの下手投げを得意とするなど、「玄人好み」の相撲で活躍した71代横綱・鶴竜。2019年春場所で引退した後は、鶴竜親方として陸奥部屋で後進の指導にあたり、23年12月に年寄・音羽山を襲名した。東京都墨田区に音羽山部屋を創設し、相撲部屋の師匠として、新たなスタートを切った音羽山親方に、初場所の土俵を振り返ってもらった。 【写真】土俵入りでの気迫と優勝パレードでの笑顔…「照ノ富士」初場所の雄姿
予想できなかった照ノ富士の復活
――24年の幕開けとなった大相撲初場所は、千秋楽に横綱・照ノ富士関と関脇・琴ノ若関の優勝決定戦となり、とても盛り上がりましたね! 音羽山:最後の最後まで優勝力士がわからないという展開は、ファンの方たちにとってスリリングだったと思います。 照ノ富士が勝てば、休場明けからの復活優勝。琴ノ若が勝ったら初優勝で、大関昇進が確実となる、というストーリーもありました。「どちらにも勝たせてあげたい」というようなムードでしたね。 ――昨年から休場が続いていた照ノ富士関が、ここまで復活すると、親方は予想されていましたか? 音羽山:正直、場所前は予想できなかったですね。初場所は2日目に若元春(前頭筆頭)、7日目に元大関の正代に苦杯を舐めて、前半戦で2敗。ヒザや腰も本調子ではないので、千秋楽まで相撲を取り切れるのだろうか? と心配でした。 ところが、後半戦に入ると、本場所の土俵の感覚も戻ってきたのでしょう。強い頃の照ノ富士の相撲になってきた。13日目の琴ノ若戦を制し、千秋楽の本割、大関・霧島との一番は、霧島を吹っ飛ばすほどの怪力を見せました。 横綱という存在は、出場した以上、「勝たなければならない」という責任があります。大関から序二段まで番付を下げて、そこから横綱に昇り詰めた、悔しさの経験値もあります。力の違いを見せ付けた初場所の照ノ富士は、横綱の責任を十二分に果たしたと言えるのではないでしょうか?
本当に楽しみな存在、琴ノ若
――優勝決定戦では敗れましたが、琴ノ若関が堂々の13勝で大関に昇進。昨年九州場所後に、親方が「大関に一番近いのは琴ノ若」とおっしゃっていましたが、今場所の琴ノ若関をどう見ていらっしゃいましたか? 音羽山:昨年の秋場所で9勝、九州場所で11勝。大関昇進の基準としては、3場所で33勝以上というものがありますから、13勝以上の白星が必要です。照ノ富士が出場したこともあって、13勝というノルマは厳しいかな? でも、しっかりと足場固めはしてほしい……と思っていました。一発で決めたのは、すばらしいことです。 琴ノ若は幕内に上がってきた頃から、落ち着いた態度で相撲を取っていた力士。ここ1年は三役に定着して、もともとの体の柔らかさに加えて、力強さが備わってきました。しかも、相撲が巧くて、対応力があります。 祖父が横綱(琴櫻)、父が関脇(初代・琴ノ若=佐渡ヶ嶽親方)という相撲一家の生まれですが、浮かれたところがなく、コツコツと努力してきました。 ――1月31日の大関昇進伝達式では、「大関の名に恥じぬよう、感謝の気持ちを持って、相撲道に昇進します」と意欲を表しました。 そして、26歳という若さも魅力ですね。 音羽山:ええ。偶然ですけど、私が大関に昇進したのも、26歳の時なんです。26歳くらいの時は、一番力が出る時ですし、彼は日々成長していますから、本当に楽しみな存在です。