『北欧こじらせ日記』の著者chikaさんがフィンランドで起業。決意を後押しした元同僚の言葉と襲われた異国ならではの孤独
起業後に襲ったロンリネス
こうした決意と共に起業に踏み切ったchikaさんだが、一人で働き始めると、淡々と過ごす日々と無力感で、孤独がゆっくりと近づいてきたと語る。 「孤独には、積極的な孤独(ソリチュード)と消極的な孤独(ロンリネス)の2種類があります。今まではソリチュードを楽しんでいたはずが、いつのまにかロンリネスに。大きな出来事があったわけでもなく、小さいことが少しずつ積み重なり、不安が募りました」 すしレストランで働いていたときのように、同僚や上司もおらず、身近な相談者がいなくなってしまったことから孤独感を抱えたという。しかし、chikaさんにとっては孤独から抜け出すことが、新しい世界や人との出会いが生まれるきっかけとなった。 「私は悩みの領域ごとに頼れる相談先を分散していたのですが、失った仕事領域の相談をほかの友だちに聞いても困らせるだけだと思ってしまい、相談できないことが続きました。ですが、自分が孤独であることに気づいて対処するのみだと思ったときに、自ら相談先となるコミュニティーを探そうと動きました」
夢見た場所でも同じ悩みを繰り返す
現在は日本やフィンランドでエッセイなどの執筆活動をフィンランドを拠点に行っているchikaさん。 孤独から抜け出すと、行動が大胆になり、フィンランド語に翻訳した自らの本を書店に並べてもらうなどの営業活動を行う。 その行動力の源も、フィンランドでの出会いにあった。 「自分のできることは何かを考えました。すし職人のときは、おすしを通して社会に貢献して喜んでもらえていたのが、一人になりそうした実感が得られなかった中、フィンランドにいる誰かを幸せにできるような仕事をして、それが社会の接点になると気付いた時は希望でした」 「その目標が生まれたきっかけは、移住2年目のときに友人からの『chikaって日本語だとそんなに話すんだ。本当のchikaってどんな人?』という問いでした。移住初期、弱気で言葉もできない自分のことを『赤ちゃんになったみたい』と発した言葉を覚えてくれていて。ただ、まだ本当の私を知らないと思わせていたことに、申し訳なさも感じました。そのときに『できない、できない』と考え続けるのではなく 、『フィンランドでも自分らしく生きていきたい』と思い、その一つがフィンランド語に翻訳した本を出すこと、でした」 「フィンランドでも自分であるため」に本を通して社会とつながりたいと歩み始めたchikaさん。2025年は移住してから4年を迎え、起業から3年が経つ。 chikaさんは、これからどんな未来を描いているのか。 「あえて決めずに、一番心が動くことを選ぼうと思っています。4年間のビザを取得できたことで長期的なことを考えてもいい、と言われた気もしています。目標の“フィンランドでも自分であること”を引き続き、続けながら未来の選択肢を増やしていきたい」 chikaさんのエッセイは、フィンランドという異国の地でのエピソードがベースになっているが、人間関係や仕事に悩んだりする、そうした日常は日本にいる私たちと変わらない。 「夢見ていた場所に来たからといって、夢見ていたことや生き方が自動的にできるわけではないことを学びました。日本にいてもフィンランドにいても、暮らしは自分で作るもの。どこにいても同じように悩み、その悩みを繰り返すことも人間だと認めながら、気づいたその時を最短のスタートラインだと思ってこれからも大事に過ごしていきたいです」 週末北欧部chika 北欧好きをこじらせてしまった元会社員。大阪府出身。フィンランドが好き過ぎて13年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。会社員のかたわらすし職人の修業を行い、2022年4月よりすし職人として移住の夢を叶えたが、職場の倒産により個人事業主に転身。こじらせライフをSNSアカウント『週末北欧部』にて配信中。著書に『北欧こじらせ日記』シリーズ(世界文化社)、『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)、『かもめニッキ』『世界ともだち部』(講談社)などがある
プライムオンライン特集班