30代公務員夫婦の“理想の新居”に潜む落とし穴。家事時短できない原因は「間取り」!?
考え抜かれた帰宅動線の盲点
夫婦で公務員の木村さんは、子供が生まれたことをきっかけに注文住宅で家を建てることにしました。妻の祖母が所有している梅林を譲り受け、宅地に転用して建てます。新居では、家事動線の良い間取りにしたいと考え、人気の「内玄関型シューズクローク」や「玄関近くの洗面室」を採用しました。内玄関があることで、表玄関は散らかることがなくなり、帰宅後、すぐに手洗いできれば感染症対策も万全です。 パントリーやファミリークローゼット(家族で共有するWIC〈ウォークインクローゼット〉)も帰宅動線沿いにあるので、食材収納や部屋着への着替えもでき、リビング到達前にやるべきことを終わらせることができます。また、キッチンの延長線上にダイニングテーブルを配置することで配膳・片付けが楽になり、さらに壁際にはスタディコーナーもあります。 リビングには小上がりの和室があり、子供の遊び場として利用できます。テレビ背面の収納はリビング収納として使うほか、急な来客時にモノを押し込める余裕があります。 またキッチンから見渡せる位置にウッドデッキがあるため、子供の外遊びを見守りながら家事することもできます。気軽に家族でBBQができそうなのもよいですね。 このように、子育て家族にとって理想の間取りに見えますが、じつは大きな問題が3つ隠れていました。 <依頼人の家族構成> ■ 夫:公務員(30 代)、妻:公務員(30 代)、 長女:園児(4)、長男:園児(2) ■ 家事分担:掃除は妻、それ以外は夫婦で分担 ■ 洗濯方法:外干し、部屋干し(雨天や花粉の季節等) ■ 帰宅時に、部屋着に着替える
6回ドアを開けないとリビングに辿り着けない
1つ目は玄関からリビングまでの家族動線で6回も戸を開閉しなければならないことです。シューズクロークや洗面室、脱衣室やパントリーを通過するので仕方ないのですが、手荷物や子供を抱っこしながらの引き戸開閉は面倒です。動線も折れ曲がっていて複雑です。 2つ目は、帰宅時に脱衣室を通ることです。ランドリーを兼ねた脱衣室なので、干してある洗濯物をかき分けながら通過しなければなりません。また家族が入浴中だと通りにくく、玄関に引き返すとかなり遠回りです。ちなみに玄関からキッチンまでの動線は25mです。元々住んでいたアパートは5m程度でしたので、5倍動線が長くなることになります。 3つ目は、靴を蹴飛ばしてしまう帰宅動線になっていることです。靴が雑に置かれていても、表玄関をキレイを保てるのが「内玄関型シューズクローク」のメリットです。ただ玄関近くに入口を作ってしまうと、帰宅した家族が目の前に靴があるので蹴飛ばしてしまいます。靴をよけて入るのも面倒なので入口を手前にずらしたほうがよいです。 この3つの問題は、洗面室・脱衣室・浴室・パントリーの配置を変えることで改善できました。脱衣室とパントリー、WICは、帰宅動線から外し、洗面室だけを経由して一直線でLDKまで到達できるように変更します。この変更により、帰宅動線が短縮し引き戸の開閉数も半分になりました。 さらにキッチンから帰宅する家族が認識でき声掛けできる・食事後の歯磨きも洗面室への移動が楽・洗面室やお風呂の混雑状況も把握しやすい、と良いことばかりです。 元の間取りでは、パントリーを通過することで、帰宅時に食材等を収納できるように考えられていましたが、買い物袋を持ったまま収納することはできません。実際はキッチンに買い物袋を置いてから、冷蔵庫やパントリーに食材を収納するほうがラクなので、パントリーを通過する意味はありません。収納動線を効率化するには、最短でキッチンに行けることが重要というわけです。また内玄関は、靴を蹴飛ばさないよう、玄関に入ってすぐに入れるように変更しました。 入居して1年経過した頃、木村さんの自宅を見学させていただきました。家事動線も良く快適にすごされていて、「船渡さんにお願いして本当に良かった!」とも話して下さいました。 1点だけ想定と違ったのが、買い物後の帰宅動線です。帰宅してすぐ手洗いする想定でしたが、食料品を買い物した場合、手洗い前に荷物をキッチンまで運ぶことが多いそうです。その後、手洗いとなりますが、改善した間取りでは、キッチンから手洗いが近いので助かっているとのことでした。 じつは私もそのような動きになるのではないかと想像していたので、キッチンと手洗いを近くすることを意識して間取り検討しています。「帰宅してすぐ手洗い」というと、「玄関近くに手洗い設置」と考えがちですが、自分たちが普段、どのように行動しているかを見直した上で、間取りで暮らしてみると、暮らしにくさを発見しやすくなります。
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