社説:検事正の性暴力 高まる検察不信、直視を
性暴力で尊厳を踏みにじられ、苦しみ続ける被害者の叫びを、被告はもとより、検察組織も重く受け止めねばならない。 大阪地検トップの検事正が、酒に酔った部下の女性検事に性的暴行をしたとして準強制性交の罪に問われた裁判が始まった。 起訴内容によると、元検事正の北川健太郎被告は現役当時の2018年、女性や同僚との懇親会後、泥酔状態の女性が乗るタクシーに強引に乗り込み、自身の官舎で性的暴行を加えた。 被告は事件後、女性に対し「事件が公になれば自死する」「検事総長が辞職し、検察庁は当面仕事ができない」などと脅し、口止めしたという。 あまりに卑劣で身勝手な行為に憤りを禁じ得ない。被告は逮捕前の聴取に「同意があると思っていた」との趣旨を述べていたが、裁判では起訴内容を認めた。どれだけ反省しているのか。 同時に浮かび上がったのは、検察の隠蔽(いんぺい)体質である。 被害者の同僚だった女性副検事が、今回の事件の捜査情報を被告側に漏らした上、虚偽告訴だと検察内で吹聴したとして、名誉毀損(きそん)などの疑いで被害者が告訴した。信頼していた上級庁の検事も被害者を誹謗(ひぼう)中傷したという。 加害者を守るために組織ぐるみで女性を孤立させ、「セカンドレイプ」を引き起こしたのではないか。大阪高検も逮捕を公表した際、「被害者のプライバシー」を理由に容疑内容を一切明かさなかった。元幹部の不祥事を伏せようとしたとしか思えない。 「魂の殺人」とも言われる性暴力は被害を訴えづらく、相手が上司であればなおさらだ。被害者は6年近く苦しみ、ようやく申告に至った。 検察は事件を検証し、組織の問題点を明らかにすべきだ。 被告は定年の3年前に「一身上の理由」で辞職した。退職金も手に入れ、弁護士として検察での実績を誇示してきたという。 一方、女性はフラッシュバックに苦しみ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で休職している。会見で「身も心もボロボロにされた」といい、「実態を正しく知ってもらい、性犯罪を撲滅したい」と涙ながらに語った。悲痛な訴えを無駄にしてはなるまい。 冤罪(えんざい)事件をはじめ検察の不祥事が相次ぐが、反省や責任を明確にした改革案は見えない。検察組織全体に国民の不信感が高まっている危機的な現状を自覚すべきだ。