自然災害が増えると幽霊の目撃談が増えるのはなぜなのか、東日本大震災やコロナ禍でも報告
共同体をまとめ、悲しみに区切りをつける幽霊たち
幽霊話は、怖がらせるためだけでなく、実用的で象徴的な道具として、様々な文化で生き続けてきたと、米ミズーリ大学の人類学者クリスティン・バンプール氏とトッド・バンプール氏は言う。両氏は、共著書『An Anthropological Study in Spirits(霊の人類学的研究)』のなかで、民間伝承がしばしば共同体を守り、ときには危険な場所や人物に近づかないよう注意喚起をする役割も果たすと指摘している。 幽霊は、「欲望、怒り、その他の反社会的なものを何らかの形で警告する比喩的な危険として認識されているのかもしれません」と、クリスティン・バンプール氏は言う。 幽霊の見た目は必ずしも人間であるとは限らないと、トッド・バンプール氏は言う。例えばスイスとイタリアにまたがるアルプスのような地域では、氷河の消失を悲しんで、山々が亡霊のように嘆いている姿を地元の人々は地形に見いだしている。世界中で、風景が大きく変わってしまうほどの破壊的な災害にあった人々が同様の体験をしていると、トッド氏は言う。 それにしても、多くの社会がこれほど積極的に自らを怖がらせようとするのはなぜだろうか。 「幽霊話は共同体を一つにまとめることができます」と、クリスティン・バンプール氏は言う。世代を超えて語り継がれてきた物語によって結ばれた社会的な絆は、社会の信仰体系を強化し、葬儀が正しく執り行われていることを確認し、死者がやり残した仕事を共同体が協力して完成させるよう促す役割を果たす。 これは特に、危機のときに重要になってくる。例えば、2023年のトルコ地震の後、生存者は何もかもが破壊されたなかで愛する人の死を適切に嘆くこともままならなかった。世界保健機関(WHO)は、多くの人が死者を葬ることができず、「二次的トラウマ」が広く蔓延したと報告している。このような場合、人々が物語を語り、伝えあうことが、希望と記憶を生かし続ける助けとなる。 2011年の東日本大震災後、各地で伝統的な怪談会が開かれた。被災者に取材して『津波の霊たち 3.11 死と生の物語』を書いたジャーナリストのリチャード・ロイド・パリー氏は、生存者たちがつながりを求め、区切りをつけるために、愛する人の霊に会うことを強く望んでいたと書いている。 こうした災害の心理的影響は、被災地だけにとどまらない。2011年の津波発生後、災害精神医学を専門にするギース氏の同僚は、ハワイに住む日系人社会の心のケアの支援を求められたという。彼らもまた、太平洋の向こうの祖国で起こった出来事に衝撃を受けていた。 「今後、幽霊を見たという人はもっと増えると思います」と、ギース氏は話す。人を、麻薬やアルコールに再び走らせるような誤情報や強い不安感もまた、すべて増加の一途をたどっているという。
文=Daniel Seifert/訳=荒井ハンナ