兵庫県北部でシカと車の衝突事故増加 夜間に道路へ飛び出し、早めのライト点灯を 1~10月416件
兵庫県北部の但馬地域で今年、シカと車が衝突する物損事故の件数が、例年より増加している。但馬地域の3警察署に届け出があった1~10月の合計で、シカとの事故が416件発生した。2023年の通年実績(389件)をすでに上回っており、前年同期(308件)と比べて約1・3倍に増えている。このままのペースで推移すれば年間で500件に迫る勢いだ。(阿部江利、長谷部崇) 【表】但馬地域で車にひかれて死んだ動物の数 ■但馬3警察署管内、すでに昨年上回る 日没が早まり、まもなく雪の季節となるが、警察署などは徐行や日暮れ前からのハイビーム利用などを呼びかけている。 豊岡署によると、1~10月に管内で起きたシカとの事故は204件と、前年同期に比べて1・4倍に拡大した。23年は通年で181件だったが、このうち1件はシカと衝突したとみられる事故で、バイクに乗っていた男性が命を落とした。 南但馬署管内では1~10月が91件(前年同期比1・2倍)、美方署管内も121件(同1・3倍)と多く、いずれも前年実績をすでに上回っている。 警察署などによると、シカと車の接触は夕方から明け方にかけて頻発するという。このため、日が傾いて視界が悪くなり始める午後4時ごろからのライトの点灯を呼びかける。また、事故の届け出は最寄りの警察署よりも110番通報を推奨する。衛星利用測位システム(GPS)で事故の地点をいち早く確認できるからだ。 シカとの接触が増えているのは、生息域の分散が考えられるという。豊岡市の有害鳥獣主任対策員、岡居宏顕さん(55)によると、わなや狩猟の脅威にさらされる山中から、安全に過ごせる河川敷や市街地の近くに移動しており、道路に飛び出しやすいという。豊岡市でも河川敷での捕獲などを進めている。 特に発情期の9~11月は、雌を求める雄が見通しのいい道路などに立ち尽くすことがあり、車と接触するケースが考えられる。積雪シーズンでも、除雪で表出した草や融雪剤などを食べたりなめたりしに来るため、油断は禁物という。 ■シカが65%、在来種減少 但馬獣医師会の野生動物事故調査 但馬獣医師会は、但馬地域で野生動物が車にひかれた「ロードキル」の件数を2013年から5年ごとに調査している。同会による昨年の調査(22年10月~23年9月)でも923件が発生し、うちシカが601件(65%)と全体の3分の2を占めていた。 国道、県道、町道の管理者にロードキルの件数を尋ね、動物がひかれた場所を1件ずつ地図に落とした。 シカが死んだ交通事故を市町別に見ると、豊岡市が230件で最も多く、香美町139件▽養父市119件▽新温泉町60件▽朝来市53件-と続く。13年の調査では、タヌキが350件(34%)で、シカが248件(24%)だったが、18年にはシカ547件(46%)、タヌキ189件(16%)と逆転。23年はシカがさらに増え、タヌキは107件(12%)に減少した。 調査を担当した同会の大西英剛さん(77)=香美町村岡区日影=は「ロードキルの件数は動物の生息数と比例する。近年シカの増加は但馬北西部で著しく、調査結果からもその傾向がうかがえる」と話す。また、シカとの交通事故が増える一方で、在来種のキツネやテン、イタチ、ウサギの件数は減少。森の下層植生を食べ尽くすシカの急増がほかの動物の生態系にも影響を与えている可能性があるという。 動物との衝突はほとんどが夜間に発生し、香美町村岡区長板や養父市関宮など、長い下り坂で起きやすいという。スピードを出した車と山際から飛び出したシカが衝突するケースが多いとみられる。(長谷部崇)