春の旬を味わいたい! 「野菜がおいしい」おすすめ2店、シェフの技と工夫に感動
連載《グルメモード》
春本番も間近、野菜がとびきりおいしい季節がやってきた。気候変動で収穫期がずれるといった現象が全国で見られるようになったが、それでも春から初夏が旬の野菜は多種多様。食べ頃の野菜を思いっきり満喫すべく、ヴィーガンコースを提供するハイエンドなレストラン2店を紹介しよう。 【写真はこちら】見てワクワク、食べておいしい! シェフ全力の料理をもっと見る ヴィーガンとは動物性食品を一切使用しない完全菜食の食事スタイルである。最近は地球の持続可能性と健康への配慮から欧米では肉食を控える人も増えているようだが、近世まで肉を食べなかった日本は菜食の先進国。2人のシェフが植物性食品だけで表現するおいしさには、日本人らしい知恵と緻密な工夫が随所に凝らされている。
■ヴィーガン仏料理の模範 「サンス・エ・サヴール」
「東京五輪に際し、外国人客へのおもてなしとして手がけたコースでしたが、いざ始めると、ヴィーガン料理を体験してみたかったという日本人が多かったのがうれしい誤算でした」。東京・丸の内の「サンス・エ・サヴール」シェフ、鴨田猛さんは語る。丸ビルの35階という絶好のロケーションから見渡す東京の景観も、とびきりラグジュアリーなフランス料理店だ。 もともと野菜とオリーブオイルを多用する地中海料理が基調のレストランだが、フランス料理からバターや生クリームなどの乳製品を排除するのには困難が伴う。思い悩んでいた頃、イタリアで開催されたヴィーガンの世界大会で優勝した日本人女性シェフに「そんなに難しく考えずに動物性食品の代わりを探せば、必ず見つかります」と励まされ、作るハードルが下がった。 しかし、鴨田さんが求めるおいしさのハードルは限りなく高い。例えば、単純に牛乳を豆乳で代用するだけでは、絶対的に物足りない。自分の中で満足できず、「もっとできるはず!」と、代替を代替以上に引き上げる探究と試作を続けた。今ではヴィーガンフレンチの最高峰と呼べるような模範的スタイルが確立されている。
■100%植物性のバターとクリームは自家製
ヴィーガンコースで使う野菜は20種類以上。福井県の「ワトム農園」、石川県の「西田農園」、京都府の「自然耕房あおき」など、鴨田さんが各地を訪ね歩き、探し出した生産者から直接送ってもらう。洋野菜だけでなく伝統的な在来種も積極的に取り入れ、全てが有機栽培だ。 子牛の骨で取るフォン・ド・ヴォーなどソースに不可欠な動物由来のだし汁類の代わりが、野菜のブイヨン。タマネギ、ニンジン、セロリを中心に各種野菜の端材をありったけ使い、炊き上がりに焼いた梅干しを加え、その塩味と酸味でブイヨンの味の輪郭を際立たせ、うま味を強める。 植物性バターはココナツオイルやオリーブオイル、市販のプラントベース・ラードをブレンド。生クリームの代わりに使う植物性クリームにはアーモンドミルクやオーツミルク、ココナツミルク、豆乳ホイップを最適比率で合わせ、キノコの発酵エキスでうま味と深みを出す。 ブイヨン、バター、クリームは、いわばフランス料理のうまさの土台。「納得できるものが完成するまで、2年はかかりました」と鴨田さん。これらがあるから、おいしい野菜がますます輝く。