春の旬を味わいたい! 「野菜がおいしい」おすすめ2店、シェフの技と工夫に感動
■伝統の枠を飛び越える「ガストロノミーヴィーガン」
ファロのコースは通常の「ガストロノミー」と「ガストロノミーヴィーガン」の2つ。前者はイタリア料理の軸から外れないことを心がけるのに対し、後者はイタリアらしさを意識せず、「格式あるレストランとしてのヴィーガン料理を念頭に、あえて伝統の枠を飛び越えています」と浜本さん。この春の自信作を教えてもらった。 「レンコンのニョッキ」はすり下ろしたレンコンと片栗粉をニョッキ状に練り上げてフライにしたもの。赤いソースはシンガポール名物の麵(めん)料理、ラクサをヒントにした。シンガポールでの体験から生まれたエスニック風味の一皿だ。 オレンジとグリーンのストライプも鮮やかなラビオリの中身は、春の到来を告げるフキノトウ。通常、ラビオリの具材にはリコッタチーズを使うことが多いが、代わりにほんのり甘く、かすかな苦みも備えたカシューナッツのペーストでフキノトウをあえている。隠し味に忍ばせたのは浜本さんの故郷、群馬県の田舎みそ。燻製(くんせい)したオリーブオイルをアクセントに散らした。 パイ包み焼きはメインディッシュとなる1品。パイ包みならこの店といわれるフランス料理店に通いつめ、ヴィーガンに応用した。詰め物は赤ワインとトマトソースで煮込んだ大豆ミートを主材料に、コンニャクで食感、マッシュルームとポルチーニのエキスでうま味を足す。ホウレンソウで巻き、パイで包んでこんがりと焼き上げ、深紅に輝くビーツソースを添えた。 浜本さんは外食するとき、必ず「これ、ヴィーガンでできないかな?」と考えてしまうという。「野菜は季節による移り変わりが早く、1つの野菜が1カ月は持たずに姿を消し、次の野菜に入れ替わっていく。いつでも料理のアップデートに迫られ、休む暇がありません」と浜本さん。今は野菜に向き合って学ぶことの連続で、ヴィーガンがいろいろなことを教えてくれる日々。新シェフとなり、枠を超えた創作の幅はさらに広がりを見せてくれることだろう。 文:畑中三応子(食文化研究家)
畑中三応子
東京生まれ。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(中央公論社)編集長を歴任。近現代の食文化を研究・執筆。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」受賞。著書に『ファッションフード、あります。』(ちくま文庫)、『熱狂と欲望のヘルシーフード』(ウェッジ)など。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。