春の旬を味わいたい! 「野菜がおいしい」おすすめ2店、シェフの技と工夫に感動
■「思わず笑みがこぼれるようなおいしさ」を目指して
サンス・エ・サヴールの春のヴィーガンコースは3種類の一口アミューズで始まり、前菜2皿、コンソメ、メインディッシュ、デザート、食後の飲み物と小菓子で構成。最初の前菜は、桜葉の塩漬けでマリネしたトマトと海藻に、青レモンが香るヴィーガンクリームとの組み合わせ。いかにも春らしい爽やかな一皿だ。次の前菜は一面に色とりどりの野菜を盛り合わせ、ライムの酸味がすがすがしいソースをたっぷりと。野菜は1種類ずつ別々に、丁寧な調理を施している。 コンソメのインパクトの強い褐色は黒ニンニクによるもの。レモングラスとショウガを利かせてあり、パンチのある味わいだ。トルテリーニの生地には米粉とセモリナ粉を混ぜ、もっちり仕上げている。 メインディッシュはスモークした豆のソースと黒トリュフをたっぷりのせたカリフラワー。野菜のブイヨンで煮含めた後、ローストして表面を香ばしくカラメリゼしてある。たくさん食べても食べ疲れせず、花、茎、軸と食感の変化が楽しめ、消化にいいカリフラワーは、鴨田さんが多用する野菜だ。メインディッシュの主役として、魚や肉に負けない食べ応えがある。 「あっさり」「さっぱり」というイメージを覆すコクとうま味とボリュームを備えたサンス・エ・サヴールのヴィーガン料理。その背後には調理場で費やされた膨大な手間がある。「難しく作って、シンプルに味わってもらうのが理想。笑みがこぼれるようなおいしさを目指しています」と語る鴨田さんのヴィーガン料理はさらに高みに向かい、これからも進化を止めないだろう。
■ヴィーガンのパイオニア、東京・銀座の「ファロ」
東京・銀座の資生堂ビル10階の「ファロ」は革新的な現代イタリア料理で知られるレストラン。ヴィーガンコースでもパイオニア的な存在だ。 今年からシェフを務める浜本拓晃さんは2016年、30歳以下の若手料理人の世界一を決める「サンペレグリノ・ヤングシェフ国際料理コンクール」で準決勝に進んだ。その時に作ったのがヴィーガン料理。どんな人種や宗教でも100%植物性の食事なら全ての人が分け隔てなく、1つのテーブルを囲んで同じものを食べ、幸せを分かち合える。そんな思いが出発点だったという。 だが、25歳で料理人を志してまだ2年目だった浜本さんは同世代のレベルの高さに愕然(がくぜん)とし、翌年イタリアに渡った。北部ピエモンテ州を皮切りにイタリア半島のかかとに当たる南部プーリア州、首都ローマで研さんを積んだ後、シンガポールのイタリア料理店でシェフとして半年、腕をふるって帰国した。 「スタートが遅かっただけに、学び足りていないという焦燥感が常にある」というが、これだけのスピードでシェフに就くには、生まれつきの才能と、何より絶え間ない努力があったはずだ。ヴィーガン料理に使う野菜にしても、必ず産地を訪ねて実物を見て選ぶ。付き合いのある農家は現在、およそ30軒。ほぼ全て産地直送で届けてもらっている。