マッチングアプリの恋愛、なぜ難しい? ユーザーたちの「リアルな感想」をさぐる
アプリでの出会いは関係が希薄になりがち
決して、出会い系アプリが私たちの日常生活における全ての悪い面を引き出してしまったわけではない。だが、アプリは耐えがたいレベルにまで来てしまった現代生活の常識をさらけ出してしまう。 「アプリは完全に改悪化が進んでいます」。北カリフォルニアに住むヴィジュアルアーティストで教師のマレーネ(35歳)は、アプリについてこう語る。「改悪化(Enshittification)」とは、作家のコリイ・ドクトロウが作り出した技術用語で、企業がユーザーの利益や成長よりも自らの利益や成長を優先したときに起こる、プラットフォームの衰退を表す言葉である。 作家ドクトロウは、改悪化のプロセスについて説明するなかで、企業も最初は「ユーザーに対していい顔を見せる」と記述。「しかしその後は、ビジネス上の顧客によりよいものを提供するためにユーザーを悪用し、最終的にはそうした顧客さえも悪用して自分たちの利益を集約し、最後には滅びてしまう」と記している。 「今日、デートすることを明確な目的としたマッチングアプリを使うのは、ちょっとクレイジーなことだと思います」と語るのは、フィラデルフィアを拠点とするミュージシャン、ルーク(26歳)。Z世代でアメリカの大都市に住むルークは、出会い系アプリの主要ターゲット層に当たるが、彼は携帯電話から出会い系アプリをすべて削除している。 「アプリでの出会いは関係が非常に希薄です。アプリを使っていないときの相手についてよく知ることなど、ほぼ不可能です」 ルークのように、より人間的なつながりを求めて、アプリでのデートを避ける人は増えてきている。自分にとって役に立たなくなったアプリを、なんとか拒否しようと必死になっているのだ。 アプリを使わずにデートをする人の多くは、会社や地域のサークルやアクティビティ、ルーティン、そして"運"が運んできた神様のめぐりあわせなどに頼ることになる。そうした人の多くは、ある意味で自分の選択によっては生涯独身となる可能性があるということを常に認識しているが、一方で何年も不毛なスワイプを繰り返すより、自分に合っていると思うことを実行している。 ニューヨークに住む非営利団体職員のマヌ(41歳)は、「パンデミック以前、アプリを使ったデートに出かけたことなどほとんどありませんでした」と語る。今年になり、彼女は再びHingeを使用するようになったが、それと時を同じくして、15年前の知り合いがInstagramで連絡してきた。2人は本当にいろいろなことについて語り始め、マヌは長い間感じたことのなかった深いつながりを体験した。 「このことは、私の世界を完全に揺るがしました」と彼女は語る。「数週間後には、彼に会うためにロンドン旅行を計画しています。ブルックリンで3回(出会い系アプリを通じた)デートをするくらいなら、大金をはたいてでもロンドンに4日間行って、誰かに会うほうを選びます」 一度ダウンロードした出会い系アプリを手放すというのは、人によって、時になかなか大変な場合もある。今年のバレンタインデーに、Match Groupはサンフランシスコの連邦裁判所に提訴された。集団訴訟となったその内容は、TinderやHingeといった同社傘下のアプリの使用により「Match Groupは、ユーザーをつかみどころのない心理的報酬を求める"ギャンブラー"へと意図的に変貌させている」というものだった。 私が話を聞いた出会い系アプリを削除した人たちは今、バーなどの社交場、友人やセッティングを通じて出会いを探そうとしている。たとえば、現在は結婚している知り合いのカップルは、近所の相互扶助グループのコーディネート業務で知り合った。しかし、徐々に台頭しつつあるデートの新しいパラダイムを理解するには、「旧来のデートを支えていたもの」を十分に理解する必要がある。