初代日産リーフは「普通に乗れる」電気自動車だった【10年ひと昔の新車】
あえて余裕のあるCセグメントのボディサイズを採用
2010年12月、電気自動車「日産リーフ」の販売がついに始まった。将来の主役となる量産電気自動車はどんな走りを見せたのか。その注目の試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年3月号より) 【写真はこちら】Cセグメント用の新プラットフォームを採用。リーフのパッケージは生産性も考慮してガソリン車に近い。(全10枚)
2010年12月に発売が開始されたEVが日産リーフ。今回、横浜を基点にして一般道での試乗会が開催された。 自動車メーカー系EVの市販車、もしくは市販予定車は、一部のスーパースポーツモデルを除けばほぼすべてがAセグメントベースになるが、リーフはCセグメントの新プラットフォームを採用。大人5人がゆったりと移動できるパッケージが最大の特徴だ。 グレードはXとGの2種類。ベースのXの車両価格は376万4250円だが、この3月末までは2010年度のEV補助金制度が利用でき、1台につき最大78万円の補助を受けることができるため、実質300万円を切る価格となる。また2011年度までは自動車重量税と自動車取得税は免税、さらにグリーン税制に適合するため自動車税も購入翌年度は50%軽減される。 充電は普通充電と急速充電の2種類に対応。充電口はフロントエンブレム内にあり、向かって右側に普通充電ポート、左に急速充電ポートを備える。200Vの普通充電の場合はバッテリー容量100%まで約8時間、急速充電の場合は約30分でバッテリー容量の80%充電が可能。JC08モードの場合、フル充電時で200km走行できる。 サポートプログラムも充実。月々1500円で、カーウイングスによるITサポート、6カ月ごとの点検、日産ディーラーでの充電無料サービス、万が一のトラブルや電欠(ガソリン車で言うガス欠)の際のレスキューなどトータルサポートを受けられる……と、リーフの概要は以上である。
スポーツモデルのような腰を中心に曲がる運転感覚
クルマに乗り込む前からクルマとのコミュニケーションが始まるのも、新しい価値観を提供するリーフらしい。ケータイで充電状況を確認したり、事前にエアコンをオンにして、車室内を快適温度に設定することも可能だ。例えばショッピングセンターに出かけ買い物中に充電すると、充電の終了をメールで知らせてくれるなど、EV特有な使い方もよく研究されている。 適度に暖まった室内に入り、パワースイッチを押す。同時にパソコンの起動音のような優しい音が鳴り、出発を促す。マウスのような形をした電制シフトを右手前にスライドするとDモードになりスタートが可能となる。 音もなくスルスルと加速するフィールはトヨタプリウスにも似ているが、その滑らかな加速感がどこまでも続いていく。最大トルク280Nmは発進の瞬間から発生するが、緻密に制御されるためにジャジャ馬的EVの加速感はない。ないが、アクセルペダルの踏みしろに呼応してトルクが盛り上がり、力強くクルマを前へ前へと進める。 電制シフトをもう一度右手前にスライドさせると走行モードが「ECO」モードになる。制動時の回生エネルギーが増加し空調設定も控えめになるため、市街地走行では10%の航続距離アップとなるが、この状態での発進加速も、もどかしさは少ない。 当然ながら、走行時は静かで滑らかだ。ガソリンモデルの価値観でいくと、プレミアムブランド車のハンドルを握っている感覚になる。高速走行でも、風切り音やロードノイズしか耳に届かないため、助手席の人はもちろん後席とも普通の声量で会話ができる。 東京湾を渡るアクアラインは、この日風速12m。それでも重心が低いためか横風安定性はそれなりに良かった。乗り心地も非常にマイルドだ。 撮影も兼ねて、高速道から一般道に下りワインディング路で走行する。ペースを上げると、ロール感は伴うが、MRスポーツモデルのような〝腰で曲がる〟運転感覚が味わえたのは面白い発見だった。車両重量は1520kgとこのクラスにしては重めだが、フロントに重量物のエンジンがないためだろう、タイトなコーナーでの回頭性が良く、トルクの太さも手伝ってかなりスポーティにも走ることができる。ただし、調子に乗ると走行可能距離はみるみるうちに少なくなっていく。 試乗する前は、常に航続距離に不安を持ちながらのドライブになると予想していたのだが、ボタンひとつで周辺の充電スポットを探せたり、細やかに電費情報も知らせるため、実際はそれほど心配もなかった。ただし、横浜から木更津往復140kmのドライブでは、途中1回の充電は必要だった。 これから充電スポットなどインフラは急速に整うだろうが、現状のバッテリー容量=航続距離を考えると、大人5人がゆったりと移動できるというリーフのコンセプトは、はたしてどんなニーズに応えるのか、と考えてしまうこともある。ただリーフの登場を新たなモビリティの提案と見ると、従来のガソリンエンジン車の視点ではその価値は量れないのかもしれない。 ゼロエミッションという高尚な思想だけでなく、静粛性や加速感、そして走りという、クルマの普遍的な部分でも、EVゆえのメリットを味わわせてくれた今回の試乗だった。(文:Motor Magazine編集部/写真:永元秀和)
日産リーフ G 主要諸元
●全長×全幅×全高:4445×1770×1545mm ●ホイールベース:2700mm ●車両重量:1520kg ●パワーユニット:モーター ●最高出力:80kW(109ps)/ 2730-9800rpm ●最大トルク:280Nm(28.6kgm)/0-2730rpm ●JC08モード充電走行距離:200km ●駆動方式:FWD ●タイヤサイズ:205/55R16 ●車両価格:406万0350円(2011年当時)
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