ミサイル発射で挑発合戦、アメリカの北朝鮮攻撃は近いのか?
南シナ海問題抱える中国がカギを握る
また、たとえ意図したとしても、ロシア及び中国が反発することは間違いありません。 特に中国は、南シナ海の問題で、アメリカと対決姿勢を強めています。単に仲が悪いということではなく、南シナ海での交渉カードとして、北朝鮮に対する影響力を持ち続けることが、中国にとって強いカードとなるのです。 北朝鮮が崩壊してしまえば、そのカードがなくなります。中国は、そうなれば南シナ海の問題で、アメリカがより強い態度で出てくると予想しているでしょう。中国にとっても、北朝鮮は既に喜ばしい隣国ではありませんが、南シナ海の問題を有利にするためには、北朝鮮が存在し続けることが望ましいのです。 特に、北朝鮮への経済制裁が実効性を発揮するか否かが、北朝鮮と長大な国境を有し、北朝鮮の最大貿易相手国である中国の胸先三寸と言える状況では、南シナ海の問題に対して、北朝鮮カードが非常に強力です。アメリカが南シナ海を問題視すれば、北朝鮮への経済制裁破りを暗に匂わせれば良いのです。 結果的にトランプ大統領は、いかに威勢の良いことを言ったとしても、現状では軍事的オプションは取り得ません。 唯一可能性があるのは、金正恩一人を強制排除する“斬首戦術”です。(斬首戦略と呼ばれる事が多いですが、戦略ではなく戦術です) しかし、この斬首戦術は、北朝鮮国内を混乱させることが必至であり、アメリカや日韓に統制の取られていない攻撃が及ぶ可能性があります。加えて、斬首戦術に対しては、金一族は、昔から常に最大級の警戒をしてきました。居場所が分からない限り、この方法は使えないため、恐らく不可能です。 軍事的ではないものの、それに近い方法として唯一可能性があるのは、過去、CIAが中南米で盛んに実施していた「政権転覆工作」です。今月9日、マティス国防長官は、「北朝鮮は体制の崩壊や人民の破滅につながるようないかなる行為もやめるべきだ」と述べ、そうした工作の実施に含みを持たせました。 しかし直前に、ティラーソン国務長官が「米国は(北朝鮮の)政権交代を目指さず、政権崩壊も求めない」と述べています。その上、どうしても準備状況が分かってしまう軍事作戦と異なり、もし政権転覆工作の準備が進んでいるとしたら、絶対にそれを仄めかすことはしないはずです。そのため、政権転覆がなされる可能性もほとんどありません。 以上のことから、情勢が緊迫しているように見えますが、北朝鮮情勢は、今後もしばらく大きな動きはないだろうと見ています。
--------------------------------- ■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、軍事評論家。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。最新刊は、北朝鮮危機における陸上自衛隊の活躍を描いた『半島へ 陸自山岳連隊』。他の著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(全て祥伝社)がある