なぜイスラエルは苛烈な暴力をいとわない国家になったのか? 長く迫害されたユダヤ人の矛盾、イスラエル人歴史家に聞いた
そしてガザでの戦闘を巡りネタニヤフ首相らに戦争犯罪の疑いがあるとして逮捕状を発行した国際刑事裁判所(ICC)や、イスラエルのパレスチナ占領政策が国際法違反だとした国際司法裁判所(ICJ)の判断に見るように、イスラエルは国際社会から孤立しつつあります。世界では、イスラエルの製品や企業をボイコットする運動が広がり、若いユダヤ人もイスラエルから距離を置きつつあります。 国家としてのイスラエルの将来像を描けず、安全に不安を抱く国民が増えています。イスラエル国民としての自信の喪失は前例のないレベルになったと言っていいでしょう。社会の結束が大きく揺らいでいるのです。 パレスチナという土地にユダヤ人国家を押し付けるという入植者植民地主義のシオニズム計画に基づくイスラエル国家は崩壊に向かっています。私の考えでは10~15年で没落するでしょう」 × × ▽イスラエル社会の分断とは パペ氏によると、イスラエル社会は現在、ユダヤ教に国家基盤を求めるグループと民主主義や人権を重視するグループに分断されている。前者はイスラエル軍、治安機関の上層部に影響を与えているほか、ネタニヤフ首相の支持基盤で、国内で支持は高まっている。
前者はイスラム組織ハマスとの戦闘継続を求める一方、後者のリベラルなグループは人質解放を求めてハマスと交渉すべきだ主張することが多く、さまざまな論点で対立する。 × × イラン・パペ氏 1954年、イスラエル北部ハイファ生まれ。1980年代初頭、30年の機密指定解除期間を経た公文書の分析を通じて1948年のイスラエル建国当時の歴史を研究、1984年に第1次中東戦争に関する論文でオックスフォード大博士号を取得した。シオニズムを批判する立場からの研究を重ね、ハイファ大政治学科上級講師時代、イスラエルの学会から反発された。イスラエルでの研究継続が困難になったとして渡英し、2009年から英エクセター大・欧州パレスチナ研究センター共同所長。邦訳に『パレスチナの民族浄化―イスラエル建国の暴力』(田浪亜央江、早尾貴紀訳、法政大学出版局、2017年)。