なぜイスラエルは苛烈な暴力をいとわない国家になったのか? 長く迫害されたユダヤ人の矛盾、イスラエル人歴史家に聞いた
―ネタニヤフ政権には過激で対パレスチナ強硬派の極右閣僚がいる。 「極右政党「ユダヤの力」党首で、国家治安相のベングビール氏らの思想的源流は極端なユダヤ人至上主義をうたうカハネ主義です。創設者のメイル・カハネは米国生まれのユダヤ教のラビ(指導者)で、1980年代にはイスラエル国会でも議員として活動しました。ユダヤ人を反ユダヤ主義から守るという名目で暴力を肯定するなど、過激な活動はイスラエル国内でさえ差別的だとして禁止されました。かつては少数派でしたが、パレスチナ人への偏見を容認する学校教育や国民皆兵制度の下での軍隊教育、政治家の演説、メディアなどを通して多くの国民に浸透していきました。現在は非常に強力な政治勢力となっています」 ▽米国はイスラエルを支持し続けますか ―米国に求めることは何か。 「一部のイスラエル国民は『欧米は、イスラエルが人種差別しようとしまいが支持してくれる』と考えているようです。加えて『パレスチナ人が暴力的だ』という政府のプロパガンダを信じていると、パレスチナ人を理解しようとする余地がなくなります。若者は多感な18~21歳ごろに徴兵され、軍での教育を通してパレスチナ人への暴力は許容されるとの考え方に簡単に感化されてしまいます。イスラエルの右傾化は、国の内側から変えることはできないと言えるでしょう。
中東地域全体がイスラエルを疎外し、世界でも支持しない人が増えていくと思います。イスラエルロビーが活動を続けても各国政府はイスラエル支持が国益にかなうのか考え直さざるを得なくなるでしょう。 資金面の問題もあります。現在、ガザやレバノンでの戦闘で、戦費の多くは米国からの支援に頼っており、米国の納税者が負担しています。戦争が続けば親イスラエルの米国人でも限度を感じる瞬間が来ると思います。 私が米国に望むのはイスラエルへの関与を減らすことです。資金や武器の提供、国連でのイスラエル擁護をやめる。米国の政治エリートの間で中東への関心が低下すれば、イスラエルロビーの影響力も低下していくはずです」 ▽激しい攻撃を続けるイスラエルの未来はどうなるのか ―2023年10月のハマス奇襲以降、イスラエル社会にはどんな変化があったか。 「国内はハマス奇襲以前から問題を抱え、社会の分断が進行していました。具体的には、西岸の入植者やユダヤ教に国家基盤を求める宗教右派と、比較的リベラルな世俗派が対立し、両陣営の間には共通のものが見いだせないのです。ハマス奇襲以降、対立は増幅し、溝は深くなっています。