渡邉恒雄さんが名医・帯津良一さんに明かしていた“死生観” 「新聞社のトップはいつ殺されても不思議はない」
読売新聞グループ本社の代表取締役で主筆の渡邉恒雄さんが、12月19日、肺炎で死去した。98歳だった。主筆として、亡くなる直前まで社説の原稿に目を通していたと言われる渡邉さん。最後まで職務をまっとうする仕事人だった一方で、普段の生活ではヘビースモーカーで不眠症という、健康とは程遠い生活を長年続けてきたという。「週刊朝日」2012年6月8日号では、名医・帯津良一先生との対談に登場。自身の健康や養生について詳細に語っていた。当時の記事を再掲する。(※肩書や年齢等は2012年6月8日時点のもの) 【写真】ナベツネが「政策より下ネタ好き」と語った元首相はこちら * * * 帯津さん(以下、帯) 今月の30日で86歳になられるんですね。10歳、私が後輩になります。 渡邉さん(以下、渡) あと2年で88歳になるんで、そのへんが「達者でポックリ」の理想かと思ってますよ。そのころにはわが社の新社屋が大手町にできるんで、それまではなんとか、と。 帯 大丈夫ですよ、顔色もよろしいし。ご著書によりますと、若いころから死について考えていらっしゃったようですね。大学で哲学を専攻されたのも、そのへんが理由ですか。 渡 やがて戦争で死ぬ。それに耐えるのは哲学だと思っていた。役に立ったのはカントとニーチェですね。おやじは早くに死んでいたから伯父に哲学科に行くと言ったら、「バカ。銀行員と医者以外は人間じゃない」と説教された。僕は「この戦争は必ず負ける。そして戦争に行ったら必ず死ぬ。もし生きて帰ってきたら、医学部か経済学部に転部しますから、死ぬ前ぐらいは哲学をやらせてください」と説得したんです。 帯 召集令状が来たときは死ぬ覚悟だったんですか。 渡 99%は死ぬなと思った。あと1%は、とにかく脱走しようと。針の穴をくぐるような確率だが、成功したら、読もうと思ったのがカントの『実践理性批判』とブレイクの詩集。もう一冊が英語の辞書。捕虜になって米軍と話をするのには辞書がいる。そんな本、軍隊でばれたらおしまい。で、枕のワラのなかに3冊隠して背嚢の上にしばりつけて大事に持って歩いた。『実践理性批判』の冒頭の句は暗記しているけど、いまでも毎年、手帳にドイツ文と英文、両方を書いているよ。 帯 カントのどのあたりに魅力を感じましたか。 渡 カントはキリスト教的な神を否定しているんですよ。彼の神というのは、道徳宗教といわれるように、すべてに超越した道徳的な最高な価値、道徳律のことなんです。それは個人の人格、ひとりひとりがもっている。それは南無阿弥陀仏、私の命をお救いくださいとか、戦争で弾が当たらないように、なんて神じゃないわけですよ。なんのご利益もないのがカントの神。私も、神も仏も何も信じない。無宗教です。