色調を決めてワードローブを作る。
大人への道中、時に迷うことがあっても、慌てず騒がず諦めず。自分を見失うことなく着実に歩を進めるべく、携えてほしい一冊がある。それは、昭和を代表する時代小説家、池波正太郎が残した『男の作法』。身だしなみ、食、女性、家……。1981年、58歳の池波センセイが自身の来し方より導き出した、微に入り細を穿つ“大人の男のあり方”は今もなお、僕らの心に響く。 優等生を目指す必要はないけれど、意識するところから、大人への道は始まる。
『男の作法』より
自分に合う基調の色というのを一つ決めなきゃいけない。そうすれば、あとは割合にやりやすいんだよ。ぼくは、このごろこそ紺も着るし黒も着るけど、昔はほとんど茶が多かった。だけど、ぼくの茶というのは黒い靴を履いてもおかしくないような茶にするわけ。
素材を愛でれば、色は自ずと決まる。
「男は無精者で、しかも忙しい生き物だ……」。なんて、ハードボイルドな本に出てきそうなタフネスな男性像も、シティガールが聞いたら男のダサい“言い訳”にしか聞こえない。実際には、そんなに無精者でもないし、そこまで時間もないわけじゃないんだけど、服を着るのに、正直ファッションショーを朝から繰り広げている暇はない。お洒落を心得る大人ほど、自分に合うカラーパレットと定番パターンを持っているもので、毎朝これを上手にやりくりしながら、仕事場という戦場に向かうのだ。池波センセイも「服装で職業がわからないと」とか「色の感覚は磨いていかなければならない」と口を酸っぱくしておっしゃっている。
では、自分に似合う色をどう決めるべきか。かぶり慣れないベレー帽を毎日かぶっていたら、ある日ふと、切っても切れない関係になっているように、その色の服ばかりを着続けたら、その日は突然やってくるのか。髪の毛の色、目の色とマッチする色がいいとも聞くが、日本人だと皆一緒かも、なんて考えていたときに、目の青いドイツ人を思い出した。フランク・リーダーの展示会に行くたびに目を奪われる、シックかつ品のある色調の統一感。ワードローブの作法の教えを請うのにまさに適任ではないか。ハロー、フランク。