カルピスのブランド担当者が語る知られざる「カルピス菌」のヒミツ
あのロングセラー商品はどのようにして生まれ、どのようにヒットをつづけてきたのか。その道のりをたどる「ロングセラー物語」。今回は、発売から105年となる、アサヒ飲料の「カルピス」にスポットを当てる。現在のブランド担当者が商品の歴史と今を語る。 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言 〔撮影:西崎進也〕 山本進太郎さん やまもと・しんたろう/'82年、茨城県生まれ。東北大学大学院生命科学研究科修了後、'07年にカルピス入社。研究所を経て、'21年よりマーケティング業務に従事している。
カルピス菌を継ぎ足しながら、作られている
生みの親である三島海雲は雑貨商を営んでいました。大きな仕事がしたいと中国にわたり、内モンゴルを訪ねる機会があったんですが、体調を崩してしまったんですね。すると、過酷な気候の中で暮らしている遊牧民が毎日飲んでいるという飲み物を勧められました。 乳を乳酸菌で発酵させた白い酸っぱい飲み物でしたが、毎日飲んでいるうちに、元気になっていったんです。それが、酸乳との出会いでした。 日本でも体に良い、おいしい飲み物を作っていこうと帰国後、乳酸菌を使った商品の開発研究を始めました。しかし、クリームを発酵させたり、キャラメルに乳酸菌を入れたり、脱脂乳に乳酸菌を入れたりと、いろいろ試行錯誤するもののうまくいかない。 そんなとき、脱脂乳を乳酸菌発酵させたものに砂糖を加え、少し置いておくと味がまろやかにおいしくなることを発見するんです。乳酸菌と酵母で発酵させる研究をさらに推し進め、できたのが「カルピス」でした。 乳酸菌と酵母が混ざったカルピス菌は特別なもので、「カルピス」の製法は100年以上にわたって守り続けられています。実は、老舗の鰻のタレのように「カルピス」は昔ながらのカルピス菌を継ぎ足しながら作っているんです。 カルピス菌がなければ、あの味は出せません。あの味は「カルピス」にしか作れないんです。発酵というものの不思議さを思います。 そしてカルピス菌は今も、熟練の職人たちによってしっかりと管理されています。保管場所は秘密ですが、1カ所だけではなく、複数の場所にあります。 ネーミングにも逸話があります。「カルピス」のカルはカルシウムのカル。これに、サンスクリット語で仏教の五味を表すサルピスのピスが合わさっているんですが、最終的に山田耕筰に相談しているんです。音楽家から語感がいいというお墨付きをもらって発売に至ったそうです。 '50年代にオレンジジュースなど果実飲料が増えていく中、「カルピス」は新たなフレーバーも展開していきました。オレンジ、グレープ、パインなど。ギフト需要でも人気になりました。 子どもの頃に「カルピス」のお中元を楽しみにしていたという思い出を持つ方は少なくありません。また、「うちのは薄かったけど、友達の家のは濃かった」と、子どもの頃を懐かしむエピソードもよくお聞きします。