ブランド物を欲しがる人と「推し活する人」の共通点 囚われの身になってしまう、偶像崇拝者たち
哲学というと難解な専門書を読み解く必要がありそうで、つい身構えてしまう人もいるでしょう。しかし、ベルリン自由大学で哲学を学んだ作家の白取春彦さんは、哲学の個々のユニークな考え方を知ることによって、自分の考え方や価値観にこれまで気づかなかった新しい視点と発見を与えてくれる、といいます。 白取さんの新刊『ひと口かじっただけでも 哲学は人生のクスリになる』から、現代においてこそ役立つ哲学の考え方を一部引用・再編集してご紹介します。
■マルクスが生きていた頃のお買い物 商品が売れるように「差別化する」、という。差別することによって、差別する側のほうに高い価値が生まれる。商品がそういうふうに変質したかのように見えるマジックを、昔からよく知って使っているのが商人だ。 たとえば、和菓子や果物などを皇室に献上することによって、皇室献上品として価値と質がいっそう高いものであるかのように宣伝することができる。 さらに、商人たちは差別化で商品をきわだたせて売る方法よりもいっそう強い方法を見出した。それは偶像(ぐうぞう)をつくりあげて商売にすることだ。ただし、偶像そのものを売るのではない。偶像にまつわるものを売ることだ。
『資本論』(1867~)を書いたマルクスが生きていた19世紀半ばと、それから120年後の商品の消費の仕方はがらりと異なるようになった。 まずマルクスは、商品の価値は二つあるとした。「使用価値」と「交換価値」だ。 使用価値とは、何かをするために使えるかどうかということだ。たとえばナイフは、食材を切るために使えるという意味の使用価値がある。ナイフは数万円のものもあるし、数百円のものもある。使用価値はどちらもほとんど変わらない。しかし、耐久性も使用価値に含めるならば、数万円のナイフのほうの使用価値が高いことが多いだろう。
交換価値とは、その商品を生産するための材料費や労働者の賃金のことだ。通常、それはその商品の価格に反映されている。だから、1万円のナイフならば、他の1万円の商品との交換ができる。したがって、交換価値と呼ばれる。 一方、ダイヤモンドなど宝石に使える鉱物の使用価値は低いが、採掘(さいくつ)や加工に多くの人手がかかっているので交換価値が相対的に高くなる。 もちろん一般的には、何かをするために役立ちそうで手頃な価格の商品を買うのがふつうだ。