緊急事態宣言解除地域の”経営危機”サガン鳥栖が今日から全体練習再開「勇気を持って一歩を踏み出すとき」
子どものころから身近にあって当然だったサッカーが突然なくなり、世間から隔離されていた自宅待機中には所属クラブの存続危機や身売り報道を何度も見聞きした。そして、緊急事態宣言の解除を政府が発表した同じ日に、18を数えるJ1クラブの先陣を切って全体練習を再開させることが発表された。 拡大の一途をたどっていた新型コロナウイルスの影響を考慮し、サガン鳥栖がトップチームの活動を休止したのが3月29日。以来、サッカー人生で経験したことのない激動の時間を過ごしてきた選手たちの胸中を代弁する形で、34歳のベテラン、キャプテンのDF小林祐三が思いの丈を打ち明けた。 「コロナ禍でサッカーがなくなった日常のなかで、僕を含めて、選手のみんなはいろいろなことを感じたはずです。そうした考えを大切にしながら、これまでの時間を絶対に無駄にしないようにしたい。一度は僕たちの居場所が奪われてしまいましたが、何が正解なのかがわからない手探り状態のなかで、自分たちの手で居場所を確保するために、さまざまな危機感を抱きながら前へ進んでいきたい」 鳥栖は15日から全体練習を再開させる。14日には全都道府県のうち、佐賀県を含めた39県で発令されていた緊急事態宣言が解除。加えて、27年前に開催された開幕日を記念する「Jリーグの日」が、15日にめぐってくるタイミングもあって決断に至った。 14日午後には小林と金明輝監督(39)、そして鳥栖を運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔代表取締役社長(59)が、オンライン会議アプリ『Zoom』を介した記者会見を実施。それぞれが練習再開へ向けた意気込みをまず語ったなかで、小林が真っ先に言及したのが存続危機報道だった。
「社長からはオンラインのミーティングで、選手やスタッフへ向けてしっかりとした説明を伝えていただきました。試合がないなかでメディアのみなさまも過去を切り取るとか、誰かの言葉尻をとらえるようなことにどうしても走ってしまいがちになるかもしれません。ただ、個人としてもクラブとしても、これからはサガン鳥栖や日本サッカー界の未来へ向けた話を、どうか一緒にしていただけたらと思います」 一部スポーツ紙などで、鳥栖は3月の段階で資金難による経営危機が報じられていた。迎えた先月26日の定時株主総会で、Jリーグから情報が開示されている2005年度以降では群を抜く金額となる、20億円を超える単年度赤字を含めた2019年度決算が承認されたと発表。サッカー界を驚かせた。 赤字額が独り歩きする形となったが、株主による増資を行った結果、クラブライセンス剥奪とJリーグからの退会を余儀なくされる債務超過は回避。今年度は経営を圧迫していた人件費を半分以下の11億6900万円に切り詰め、1200万円の黒字を出す予算を編成していた。 しかし、再スタートを切った直後に新型コロナウイルス禍に見舞われ、すべての公式戦が2月下旬から中断された。この先に再開を迎えても当面は無観客試合での開催が濃厚で、必然的に収入の柱のひとつとなる入場料収入は激減。今年度の収支も大幅な見直しが避けられない状況となっている。 すべてのクラブに共通する事態だが、鳥栖の場合はコロナ禍以前の状態もあり、定時株主総会後には存続危機報道がかまびすしくなった。このときに選手やスタッフとのミーティングが行われ、竹原社長が公言してきた「身の丈に合った経営で、確実な未来を築いていく」という今後の方針が具体的に伝えられたのだろう。クラブとの間には変わらぬ信頼関係が築かれていたと、小林が力を込めて振り返る。 「大変な時期でもクラブは選手たちにきちんと寄り添ってくれました。サッカー選手やサガン鳥栖のキャプテンではなく、一個人のどうでもいい話ですけど、この春に小学生になった息子の入学式がないとか、世間一般から見れば呑気に見える悩みや不安しか感じなかったのも、クラブがそういう環境を用意してくれたおかげなので。選手を代表してクラブに感謝したいと思います」