ローカル線は乗客をどう増やす?上下分離スタートの近江鉄道で、“没”になった「データを見ない」利用促進策
>>>近江鉄道線「血風録」シリーズの過去記事はこちら >>>近江鉄道・ローカル線のギャラリーページへ(20枚) 【図表】“没”になった3つの利用促進策 (土井勉:一般社団法人グローカル交流推進機構 理事長) ■ 4.1上下分離スタート、安堵感と緊張感と 「これ以上、民間会社では鉄道を存続することは無理」という、いわばギブアップ宣言を近江鉄道株式会社が発出したのは2016年だった。以後、2024年までの8年間、様々な取り組みや試行錯誤を重ねてきた。 当初は、鉄道会社と行政とが円滑にコミュニケーションを進めるということさえ難しい状況であった。だが、様々なやりとりを通じて次第にワンチームになっていき、2024年4月1日、上下分離による公有民営方式で新たな鉄道がスタートすることになった。 4月6日には「新生近江鉄道出発式」が開かれ、斉藤鉄夫国土交通大臣ら多くの来賓のほか、三日月大造滋賀県知事、沿線市町の首長、飯田則昭近江鉄道社長らが出席した。 「ここまで来ることができて本当に良かった」「本番はこれからだ」 参加者の表情からは、安堵感と緊張感とが合わさったような心境が見てとれた。
■ 実は微増傾向にあった乗客数 1.近江鉄道線の上下分離方式の導入の目的は 単にローカル線の“存続”を目的としてしまうと、今その目的を達成したとて、将来の沿線地域の人口減少などにより、再び経営危機に陥り「存廃問題」を繰り返す恐れがある。 人々に使われてこその交通手段である。当然、鉄道も多くの人々に使ってもらわねばならない。沿線地域における住民・企業・まちが、いきいきと活動をするためのインフラとして機能することが「全線存続の目的」だ。 ここでは、多くの人々に近江鉄道線を使ってもらうようにするために展開する取り組みについて紹介したい。 2.近江鉄道線活性化分科会が着目した「通勤」「通学」 近江鉄道線活性化分科会(座長:筆者、以下「活性化分科会」と略す)は2021年6月に開催された第7回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会(以下、法定協議会)で設置が決定されたものだ。 その目的は、「沿線地域自治体、事業者などが連携して近江鉄道線をはじめとした地域公共交通の利用促進の取り組み、鉄道サービスの向上、さらに近江鉄道線を軸とした交通ネットワークの充実強化等を図る」こととされ、沿線市町と滋賀県の交通政策担当課長、近江鉄道株式会社、近畿運輸局等から構成されている。 利用促進については、域外からの観光需要のほか、通勤・通学・通院といった日常利用など、いくつかの着目点を想定することができる。 しかし、限られたマンパワーと時間的な制約下では、対象を絞って活動をしないとパワーが分散して成果が上がらない。 近江鉄道線の輸送人員は、確かにピークの1967年からは右肩下がりに減少している。だが、今なお減少を続けている状況ではない。データを丁寧にみていくと、実はコロナ禍の直近までは増加傾向にあった(図-1)。 この増加傾向に気づかないと、「沿線の人口は減少しているので、通勤・通学の鉄道利用者も減少する。だから、域外からの観光需要を呼び込まねばならない」などの意見が出てくる。 では、この増加の理由はいったい何だったのだろうか?