「フリーランス新法」は好きな仕事で生きる人々を救えるか? 収入が減っても幸福度は高い/マイナビ・元山春香さん
収入がガックリ減るライターの満足度が、ガッツリ増えるITエンジニア系より高い理由
――う~む。薄利多売のフリーランス・ライターの世界に身を置く私としては、大いに納得の説明ですね(笑)。 元山春香さん しかし、編集・ライター・印刷系の職種では、フリーランスで実現したかったことについて、「自分のペースでゆっくり働くこと」と回答している人が多いですよ。たくさん働いて収入を増やすよりも、時間に余裕をもって働くことを優先している面もあると思います。 ――なるほど。【図表3】の「フリーランスとしての働き方の満足度」調査で、収入がガックリ減る編集・ライター・印刷系の満足度が、収入が急増するITエンジニア系よりも高い理由は、そこにあるわけですね。満足度と収入は必ずしも一致しないということですか。 元山春香さん 元正社員の方がフリーランスとして独立した動機を見ると、「自分の仕事のスタイルで働きたい」「働く時間や場所を自由にしたい」といった理由が上位にきており、「収入を増やすため」は6番目となっています。収入の向上というよりも、働く自由度や自分の理想の働き方を追求するためにフリーランスになった人が多いとわかりました。 実際に独立後に実現できていることも聞いていますが、働き方の自由度に関しては実現できている人が多く、動機と現状がマッチしていることも、満足度の高さにつながっていると考えられます。 特に編集・ライター・印刷系の職種では、「好きな仕事で働くため」の動機が4割近くで、ほかの職種と比べて高く、自由回答でも「仕事が楽しい」「収入はないが、好きな仕事のことだけ考えていられる」というコメントが印象的です。収減の不満はあるものの、やりたかった仕事を実現できることの充実感が上回っている人が多いと推察されます。
フリーランスへの道、まずは副業から始めて様子をみる方法も選択肢の1つ
――ところで、フリーランス新法ですが、3人に1人が「期待できる」とする一方、5人に1人が「期待できない」と答えています。この結果についてズバリ、どう見ていますか。 元山春香さん フリーランス新法に期待できない人の回答で「何か交渉事を行うと、取引中止にされる恐れがある」「仕事をもらう立場なので、あまりこちらから意見などを言うことはできない」といったコメントが印象的で、条件面について交渉すること自体を躊躇する環境があることがうかがえます。 トラブルの上位項目に「低い報酬で一方的に決定された」「報酬と釣り合わない作業量だった」が挙がる点からも、フリーランスに対して交渉の余地を与えない姿勢の企業が一定数あるのではないかと考えさせられてしまいます。 ただ、期待しない回答よりも期待する回答が多いという点でポジティブにとらえています。新法では違反した場合、行政指導など企業側への罰則も定められており一定の強制力が期待されます。これまで法規制がなかったフリーランスの権利が守られ、主張できる環境に一歩前進したといえるのではないでしょうか。 ――これからフリーランスを目指す人や、現在フリーランスの人へのアドバイスやエールをお願いします。 元山春香さん 働き方の多様性によって、仕事と私生活どちらも相乗的に充実させる価値観が広がっていますが、フリーランスとして独立した人の価値観もこれに近いものを感じました。会社を離れ独立する不安はあると思いますが、今回の調査結果が1歩を踏み出した人にポジティブな作用があってほしいと思います。 これからフリーランスになることを検討している方は、収入が不安定になる点や、軌道に乗るまで時間がかかることを想定して、計画的に実行することを考えてください。まずは副業から始めて様子をみる方法も選択肢の1つです。 今回、職種ごとに働き方や収入、実現できたことなどが多様であることもわかりました。自分が本当に実現したいことを見極めて、情報収集や準備をし、理想の働き方を実現してほしいと思います。 (J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎) 【プロフィール】 元山 春香(もとやま・はるか) マイナビ キャリアリサーチラボ研究員 市場調査会社でリサーチャー業務に従事したのち、2024年に中途入社。現職では主に中途・非正規雇用に関する調査やライフ・キャリアに関する網羅的な調査などを担当。ミドル・シニアの働き方、キャリア自律に関心が高い。