「ゴジラ-1.0」プロデューサーが奇跡の実話「ディア・ファミリー」を手がけるまで
映画「ディア・ファミリー」(毎日新聞社など製作委員会)は、難病で亡くなった娘の父親が開発した医療機器「IABPバルーンカテーテル」が多くの命を救っているという実話の映画化だ。悲しみはあっても家族愛と希望を実感できる物語として製作された。企画、開発から深くかかわったのは、米アカデミー賞視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-1.0」も製作した東宝のプロデューサー、岸田一晃。良質のエンタメを提供する作品作りに加え、本作で岸田を大きく揺さぶり、突き動かしたのは何だったのか。 【動画】何もしない10年、やってみる10年、あなたはどちらを選ぶ? 「ディア・ファミリー」予告編
心を動かした佳美さんの言葉と父親の挑戦
2018年ごろ、テレビ番組で人工心臓を作ろうとした父親の筒井宣政さん、余命10年と告げられ亡くなった次女の佳美さんのことを知った。「すごい話」と思い、翌日には映画化の企画書を上司に提出した。同日、同じ番組を見て別のプロデューサーも提出。2人はニュースやネット情報の収集から始めた。約1カ月後、WOWOWから同様の企画が東宝に持ち込まれ、一緒に企画開発することになる。WOWOWは原作者となる清武英利さんと別作品のドラマ化で接点があり、清武氏は筒井家の家族と20年来の仲だったと知る。「ご家族の取材をお願いしたい」と製作が具体的に始まった。 岸田をひきつけたのは「私の命は大丈夫だから」という佳美さんの言葉。もう一つは、医学の知識が全くない父親が人工心臓の開発に挑んだことだった。「なぜ、そんなことが言えたのか。挑戦しようと思ったのか」。心を奪われ、まさに映画化の起点になった。プロデューサーとして「いつか実話を映画にしたい」とも思っていた。 「(ドラマを)創作していくとキャラクターを動かし、ご都合主義になってしまいがち。実話ならば人間は想像もつかないことを言い、動く。実話にはリアリティーが詰まっている」。さらに続ける。「この実話は今もなお続いているのが魅力だ。今の人の生活に直結している」。 岸田はこれまでになかった感覚を覚えていた。この映画を「作らねば」と初めて思った。「映画を通じて多くの人にこの話を伝えなくてはならない。作りたい映画ではなく、作らなければいけない映画だった」。モチベーションの高さは、その後多くの障壁に見舞われても崩れることはなかった。