「資材高騰」「人手不足」で「あこがれの俺の城」はもう実現しないのか…!「令和の不動産バブル」が飲み込んだ「注文住宅」のさみしき終焉
「注文住宅」はもう建てられない…
施主の価値観の変化も、注文住宅市場に影響を与えている。 注文住宅は、検討から設計、着工に至るまでに多くの時間を要し、通常1年近くかかるのが一般的である。しかし、Z世代を中心に「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する価値観が広がっており、こうした世代にとって注文住宅は極めて「タイパ」が悪い買い物と映るのだろう。 たとえば、ネットフリックスを倍速で観る世代からすると、代わり映えのしない壁紙を大量のサンプルから一日かけて選ぶ作業は、「タイパ」の悪さを象徴する行為と言える。私が注文住宅の営業をしていた頃、会社に報告した着工期限を守るために詳細な打ち合わせを急ぎ進めた結果、「急がせないでほしい」と施主から注意を受けた経験がある。 本来、注文住宅の良さは、ゆっくりじっくり自分に合ったものを選び抜ける点にあったはずだが、現代の価値観とは乖離しつつあるのかもしれない。 住宅を供給するハウスメーカーの事情も変化してきている。住宅会社にとっても、注文住宅は無駄が多いビジネスである。 特に問題なのが、その決定率の低さである。 注文住宅を建てる際に、施主が一社に提案を依頼して決めるケースは稀であり、多くの場合、複数のメーカーに相見積もりを依頼するコンペ形式で住宅会社を絞り込む。 仮に3社でコンペが行われた場合、1社あたりの成約確率は約33%であり、失注した場合、それまでの提案に費やした労力や費用はすべて無駄になる。 仮に落札した場合でも、注文住宅の打ち合わせは、顧客の都合に合わせる必要があり、多くの場合、土日などの休日に行われる。打ち合わせ内容もコンセントの位置や部材の色など多岐にわたり、100%顧客の要望を反映した住宅を作ることは容易ではない。しかし、顧客にとっては一生に一度の買い物であるため、完璧が求められる。これが注文住宅に携わる従業員の負担となってしまうのだ。 提案段階でも営業や設計スタッフが動いており、それに伴うコストは発生している。それらの費用は当然会社の経費として計上されるが、考え方によっては、こうした「決まらなかった提案」のコストも価格に上乗せされて、最終的には顧客が負担していると言える。 このような背景から、最近ではコンペ形式ではなく特命(単独指名)でないと図面や見積もりを行わないとする住宅会社も増えてきている。また、施主が自由に変更できる範囲を大幅に制限し、価格が明快な企画型住宅にシフトする動きも見られるようになっている。 「注文住宅」という言葉が死語となる日も、そう遠い未来の話ではないだろう。