全米OPジュニア日本人女子31年ぶりの快挙を果たした16歳。“妹気質”園部八奏が見せた急成長「何も考えないようにと、考えた」
「勝つ」という重圧を乗り越えて至った決勝の舞台
そのような急成長の季節を駆け抜けて、飛び込んだのが今回の全米オープンジュニアである。先輩たちが抜けた寂しさと、上位シードとしての重圧を覚えながらも、園部は勝ち切る強さをコートで示していった。 「身体を大きく使うこと」を意識した豪快なサーブで相手を崩し、フォアハンドで決めるポイントパターンが主軸。そのバックボーンを、プロたちと戦い磨きをかけたメンタリティで、ブレることなく支え続けた。 1回戦から準決勝までは、すべてストレート勝利。とはいえそのすべてが、一方的な圧勝だったわけではない。とりわけ準々決勝は、過去2連勝しているものの、「最近、調子を上げている」と警戒する大会第4シードが相手だった。短期間で見間違えるほどに成長するのは、何も自分だけではない。過去の戦績はさしたる意味を持たないことを知りつつも、やはり自分に勝利を期待してしまう難しい試合だった。終盤は、勝利まであと一歩に近づきながら、なかなかゴールテープを切れない。そのもどかしい精神戦を、園部は「何も考えないようにしようと、考えた」という禅問答的思考法で切り抜け、3本目のマッチポイントをモノにした。 その彼女が決勝では、「いつもより緊張した」と敗戦後にうつむく。相手は、15歳ながら既に世界ランキング600位台につけるミカ・ストイサビレビッチ。悔しさの理由は、結果以上に「自分の力を出し切れなかった」ことにあると言った。 今後、園部がジュニア大会に出ていくかは、「まだ決めていない」という。1歳半年長の齋藤は既に大人のグランドスラム予選を経験し、石井もWTAツアーの舞台を踏む。それら先達たちに、「自分も続きたいと思っている」と園部は明言した。 ジュニアカテゴリーでは常に妹分だった園部は、今大会で追われる立場を経験し、その重圧を乗り越え準優勝者となり、いよいよ本格的に、大人の大会に身を投じようとしている。 大人の階段を大きなストライドで駆け上がる園部は、より高いステージで再び若さゆえの特権を生かし、伸びやかにボールを打ち抜きにいく。 <了>
文=内田暁