おいしさ一番(8月30日)
「冷夏」は死語になりつつあるのか。例えば1993(平成5)年。福島市の7月の平均気温は20・0度で、今年より6・9度も低かった▼低温の影響を被ったのは稲作だ。戦後最悪の凶作に見舞われた。収穫期に入っても、こうべを垂れない稲が県内のほぼ全域で見られた。本紙年末の「十大ニュース」によると、作況指数は64で、1913(大正2)年の57に次いで低かった。全国的にコメ不足が深刻になり、政府は外国産米を緊急輸入した。「長粒米」の見た目に違和感を覚えた記憶がよみがえる▼昨年の猛暑で高温障害が発生し、コメが足りていないという。7月の価格は、前年に比べて2割近く上がった。物価高のご時世で、家計には痛い出費となる。棚が空になるスーパーも現れた。点数を限定して販売するケースも出ている。新米の需要が高まり、値上がりする公算が大きいと言うから心配は尽きない▼わが国の主食の消費量は年々減っている。今回の品薄が、そのありがたみをかみしめる機会になれば災い転じて…。福島米の出番が増えれば、全国の食卓に笑顔の花が咲く。冷夏と猛暑に増して大きな苦難を乗り越え、他県産より深い滋味を蓄えているから。<2024・8・30>