企業の77%が賃上げ実施も、3社に2社は「賃上げ率5%」届かず~価格転嫁難しく~
初任給、3社に1社が20万円未満。大企業と中小企業の間で「格差拡大」の懸念
新卒社員の採用がある企業における初任給の金額は、「20~24万円」が57.4%でトップ、次いで「15~19万円」が33.3%で続いた。初任給が『20万円未満』の企業の割合は35.2%と、3社に1社となった。 「新卒社員の獲得のため初任給を引き上げる」(鉄鋼・非鉄・鉱業)といった声が聞かれた。 一方で、「求人市況を考えると、初任給を含め、賃金の増額は必須と考えているが、仕入れ価格の高騰に対し販売価格がとても追いつかず、特に中小企業の経営は苦しい」(機械製造)のように、初任給など賃金を引き上げたいが、経営状況により諦めざるを得ない企業もあった。その影響で、「大企業、メガバンクなどの初任給大幅アップが大々的に報道されているが、中小企業はとてもそのような金額は出せないため、格差の拡大を感じる」(化学品製造)というように、大企業と中小企業の間で新卒者に対する賃金面での待遇に関して格差拡大の懸念が広がっている。
デジタル化・省人化を通して生産性の向上を図ることで賃上げ原資を確保するなど、さまざまな対策が必要に
本アンケートの結果、2024年4月時点で8割近くの企業が賃上げを行うことが分かった。人手不足のなか、大企業を中心に賃上げ機運が高まっていることも踏まえ、労働力の確保・定着を目的に初任給を含む賃金の引き上げを行う中小企業が多くみられた。特に従業員数101~300人の企業では競争が激しく、人材の獲得・定着に対する危機感が強いこともあり、賃上げを行う企業の割合が比較的高かった。 しかし、原材料価格や労務費などの上昇分を十分に販売価格に転嫁できないために賃上げに必要な原資の確保が難しいことや、資金的余裕が少ないことなどを背景に、大企業並みの賃上げが難しい中小企業は多く、賃上げ率が5%を下回る企業は3社に2社にのぼった。中小企業からは「大企業との賃上げ格差が拡大し、人材の確保が一段と困難になっている」との声も聞かれた。 賃上げが広く浸透すれば家計の可処分所得の増加による購買意欲の向上が企業収益の改善につながり、やがて経済が好循環のプロセスに乗ることが期待される。日本の法人企業のうち多数を占める中小企業の賃上げが進まなければ、この好循環、そして景気回復の実現は難しいほか、中小企業における人手不足問題の深刻度は増す恐れがある。 足元では円安の進行、エネルギー価格の上昇などコストアップにつながるリスクが高まっているが、中小企業はコストの上昇分を上手く見える化して価格改定の交渉を行うほか、自社商品の付加価値を上げるなど、価格転嫁を行いやすくする工夫が一策と言える。加えて、デジタル化・省人化を通して生産性の向上を図ることで賃上げ原資を確保するなど、さまざまな対策が必要となってくるであろう。 有効回答企業:1,050社 アンケート期間:2024年4月5日~15日