映画『Cloud クラウド』が世界を惹きつける理由とは?──黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎えて、9月27日に劇場公開
黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎えた映画『Cloud クラウド』が9月27日に劇場公開される。憎悪の連鎖から生まれた集団狂気に狙われる男の恐怖を描いたサスペンススリラーの見どころを、ライターのSYOがレビューする。 【写真を見る】菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝 ほか
黒沢清がアクション作で描く現代社会の闇
黒沢清監督の最新長編映画『Cloud クラウド』は、第81回ヴェネツィア国際映画祭、第49回トロント国際映画祭で上映され、第29回釜山国際映画祭にも正式出品が決定。さらには、第97回米国アカデミー賞国際長編映画賞日本代表作品に選出された(ちなみに、ここ4年ぶんの日本代表作品は『ドライブ・マイ・カー』『PLAN 75』『PERFECT DAYS』となる)。 黒沢監督本人が「自分の“好き”を詰め込んだ」と語る本作の、世界を惹きつける面白さとは何か? 私見も織り交ぜつつ、語っていきたい。 まずはやはり、設定の斬新性だ。本作はひと言でいうと「転売ヤーがある日突然、謎の集団に命を狙われる」話。その集団はインターネットを介して集まったもので、主人公に憎悪を抱いている人物もいれば、ゲーム感覚で参加した者もおり、確固たる共通項が存在しない。ゆえに主人公はただただ恐怖し、逃げ惑うことになる。同情を誘うようなウェットな復讐劇とは180度異なる、乾いた悪意が描かれているのだ。 この大義なき殺意は、現代の空気感と絶妙にマッチする。レイヤーが異なるアノニマスな“群衆=クラウド”がよってたかって個人を攻撃し、外野からそのさまを冷笑的に眺める──SNS社会を生きる我々によって、見覚えのある構造が敷かれている。 そして、主人公・吉井が転売ヤーというキャラクター造形。黒沢監督は2012年のドラマ「贖罪」でも転売ヤーを登場させるなど、この“仕事”に興味を抱いていたという。インターネットを使って商売し、知らず知らずのうちに憎悪を集めてしまう存在としてうってつけの存在でありながら、いままであまり映画では描かれなかった属性でもあろう。 吉井役を託された菅田将暉は何を考えているかわからない人物像を絶妙な塩梅で具現化。突然の命の危機に晒されパニックになりながらも、「商品は無事だろうか」と気になって仕方がない様子などは、“実はヤバい人間”ということを印象付ける。