映画『Cloud クラウド』が世界を惹きつける理由とは?──黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎えて、9月27日に劇場公開
吉井の周囲も曲者ぞろいだ。窪田正孝扮する転売業の先輩、荒川良々演じる勤務先の社長、古川琴音による恋人、奥平大兼演じるアルバイト等々、全員得体が知れない。日本のサスペンス作品は現実離れした濃い目の“キャラ演技”で構成されるケースも少なくないが、『Cloud クラウド』においてはフラットなトーンでキャラクターが統一されており、感情を表に出さない感じがかえって不気味な印象をもたらしている。 なかなか他では見られない設定、キャラクター造形、そして演技。全てに「現実味」を感じられるからこそ、後半に待ち受ける「銃を使った殺し合い」が突拍子もないものに見えない──という点も興味深い。 本企画の発端は、黒沢監督がアクション映画を作りたいと思い立ったこと。一般人による銃撃戦という荒唐無稽なシチュエーションをどう成立させるか考え抜いた末に、「転売ヤーがある日突然、謎の集団に命を狙われる」という展開に行きついたのだという。 転売とはいかないまでも生活費の足しにしようとフリマサイトに出品している人は多いだろうが、吉井もまた「この生活から抜け出したい」という一心で行動しており、誰もが共感する部分はあるはず。 閉塞感が漂う不安定な時代の中では、「小さな恨みを晴らしたい」「鬱憤を解消したい」という欲望の存在を自分の中に全否定できないのではないか。自分も知らず知らず、誰かから恨みを買っているかもしれない。そして自分の中にも、誰かを制裁したい気持ちがあるかもしれない──。吉井なのか、集団なのか。どちらに転んでもおかしくないという現代的な説得力が、この作品には充満している。だから恐ろしいし、面白いのだ。
『Cloud クラウド』 世間から忌み嫌われる“転売ヤー”として真面目に働く主人公・吉井。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒は ネット社会の闇を吸って成⻑し、どす黑い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく。誹謗中傷、フェイクニュース──悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走をはじめる。やがて彼らがはじめた“狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていく......。 公開日:9 月 27 日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー 監督・脚本:⿊沢清 出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝 ほか ©2024「Cloud」製作委員会 配給:東京テアトル 日活