欅坂46・平手友梨奈「演技は嘘をつくこと?」悩みの果てに見えたヒロイン像
どんなことをしても、観客が応援したいと思うヒロイン・響
――響が記者会見を開く場面では、空間をスポットで区切るように照明を当てていました。そういう空間の作り方がすごくうまい。 月川:原作者の柳本光晴さんと、響の行動原理を確認したときに、響は“自分”対“世の中”ではなく、常に1対1で戦っている人だと聞きました。記者会見ではたくさんの記者に相対しますが、響きはあくまで1対1で話をしている。そのことを映像でちゃんと表現したいと思い、超現実的ではありますが、周りの人々がだんだん見えなくなり、いつしか二人だけの空間になるような照明をお願いしました。音も、最初はマイクを通して響いていた声が、いつの間にか耳元で聞こえるようにしています。ここでは、響と記者の矢野(野間口徹)のやり取り、矢野と編集者の花井ふみ(北川景子)のやり取り、徒党を組んだ記者がふみに個人攻撃する場面と、状況ごとに差をつけていきました。 ――響は、戦いとは常に個人と個人のものだと思っているからこそ、ふみを集団で個人攻撃することが許せなかったんですね。 月川:そうなんです。響にはちゃんと戦う理由がある。ただし、作り手は暴れる響を、「よし、やれ!」と送り出すわけにはいかないので、響がどこまで我慢できるかというサスペンスを入れ、響が爆発してしまえば、悲劇的にすら見えるように作りました。重要なのは、響がどんなことをしても、観客が応援したいと思うヒロインである。この部分は気を付けました。
「演技をすることは嘘をつくことにならないか?」 役者としての平手友梨奈
――平手友梨奈さんは、どんな俳優でしたか? 月川:僕も初めて出会うタイプでした。彼女がずっと悩んでいたのは、「演技をすることは嘘をつくことにならないか?」ということ。要するに「今まで、平手友梨奈として嘘をつかずにやってきた。それが台無しになってしまうのが怖い」と。僕が彼女に言ったのは、「響が生まれてから15年間生きてきたのと同じ時間を、平手友梨奈が生きなおすことはできない。そこを想像して表現することが、僕は演技だと思っている。その演技が嘘だと思うのなら、あなたに響はできません」。ちょっと賭けではありましたが、彼女は自分なりに考えた“響”というキャラクターを全部体に入れ、撮影現場ではそのまま“存在”した。演じるというより、響としてただそこにいたんです。 最初に会ったときの彼女は、とても尖っていて……というか、とてもストイックで、“平手友梨奈”というキャラクターを演じているようにさえ感じました。「こんな生き方、大変だろうな」と思っていたら、それが徐々に“響”というキャラクターに変化していって、自然体であるように見えてきたんです。「もしかすると、響でいるのはすごく楽なんじゃない?」と聞くと、「そうだ」と答える。1カ月強の期間ではありましたが、“響”だった時間、彼女はとても気持ちよく生きたんじゃないかという気がします。平手さん自身の生き方も少し変わったように思いました。 僕は、響として存在している彼女が、テイクを重ねる姿を、タイムリープして、その時間をまた生きている。そんなふうに感じていました。 ――平手さんにとっては、初主演作の監督が月川さんでよかったですね。 月川:いやいや。平手さんは、周りが動かそうとして動く人ではないので、とにかくいろいろな話を二人でしました。僕自身、全部さらけ出して、丸腰になって、信頼してもらうしかなかったので。リハーサルとして来てもらいながら、台本の頭から引っかかるところを一個一個洗い出して、話し合いながら修正したり。