依存症の人が見えている世界(4)「もうやってないよね?」の声かけは逆効果
依存症に陥っている人に自覚はなく、クリニックを訪れる人のほとんどのケースが、家族や友人からの指摘で来院するという。本人に自覚がない中で、どのように治療を進めていくのか? ライフサポートクリニックの山下悠毅院長が説明する。 【買い物依存症】山積みになった購入品を見つけた夫に促され… 「ギャンブル依存症患者は、『借金を取り返したらギャンブルはやめる』と言います。しかし、負けている人が大勝ちをしたらやめられるでしょうか。『せっかく勝てたのだからもう一回』などと新たなやる理由を自分の中で捏造し、続けてしまいます」 仮に家族が大病を患い多額の入院費用が必要という状況であれば、そのお金はギャンブルではつくらない。つまり、「絶対に取り返さなければ」は捏造なのだが、自分では気が付けない。 「しかし、初診であまり当人を追い詰めると苦しくなってしまうため、『まずはギャンブルの頻度や借金の状況を定期報告してくれるだけでも大丈夫』という形で定期通院につなげていきます。その後、『自分は勝っても負けてもギャンブルが止まらない状態』と理解してもらえれば、専門の治療プログラムへと導入します」 自覚がなく、感情で制御できる病気ではないため、依存症治療は難しい。医師に相談することを躊躇してはいけない。 「『専門家に相談していることが会社にバレたら』などと悩まれる方もいるのですが、悩むのは“相談後”にしてほしい。依存症は、専門家でも『どうやるとうまくいく』は分かりません。しかし、『どうやるとうまくいかないか』についてはたくさんの知見を持っています」 家族を含む周囲にいる人も同様だ。依存症の当事者に対し、やってはいけないことを知る。その最たるものが、「不安を助長するような言葉をかける」。 「『次にやったら離婚する』などの脅し、『もうやってないよね』といった確認、『あのときは大変だった』といった過去の蒸し返しはNGです。『このまま頑張ってね』などハッパをかけるような言葉も逆効果です。本人はマインドを変えようと前を向こうとしているのに、後ろを振り返らせるような言葉をかけてはいけない。依存症の治療とは、マインドや環境を変えることなのです」 知れば知るほど奥が深い依存症の世界。理解があるかないかで雲泥の差となりそうだ。 =おわり ▽山下悠毅(やました・ゆうき) 精神科専門医・精神保健指定医。日本外来精神医療学会理事。近著に「彼らが見ている世界がわかる 依存症の人が『変わる』接し方」。