「プーチン訪朝」「ロ朝軍事同盟」に中国はどう反応したか…? 外交部報道官のあまりにそっけないコメントの真意とは
中国にとっての最悪な展開は
新華社通信は結局、プーチン大統領の訪朝と訪越に関して、7人もの記者と編集者が連名になった論評記事を出した。かなり長文なので、要旨のみ箇条書きにする。 ・今回プーチン大統領は、2000年に次ぐ24年ぶりの訪朝であり、昨年9月(ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地)に続く金正恩委員長との会談だった。 ・また大統領として5度目(2001年、2006年、2013年、2017年、2024年)の訪越だった。 ・ウクライナ戦争が激化してから、プーチン大統領は旧ロシア地域以外をほとんど訪問しなくなった。その意味で、今回の訪朝と訪越は、両国との関係をさらに高いレベルに引き上げるものだった。 ・同時に、西側諸国がロシアを国際的に孤立させる計画が挫折失敗したことを示すものだった。 ・ベトナムはロシアと、経済貿易投資、インフラ建設、交通運輸、観光、人文交流など、多くの協力の空間が広がっていると見ている。 ・ロシアにしてみれば、ベトナムとの「友好関係基本原則条約」締結30周年にあたり、象徴的な意味を持つ。同時に、ロシアに対する封鎖や制裁に加わっていないベトナムは、地政学的に貴重な存在である。 ・ロシアとベトナムは、最も切迫した両国の貿易における銀行決済問題についても話し合った。昨年の両国の貿易額は36億ドルに達し、前年よりも2.3%増加した。 以上である。ベトナム政府の発表によれば、ロシアとの今年1月から5月までの貿易額は、前年比51.4%増の19.6億ドルに達した。内訳は、輸出が44.7%増の9.6億ドルで、輸入が58.4%増の10億ドルだ。 おしまいの部分の「最も切迫した両国の貿易における銀行決済問題」というのは、ロシアとの貿易にドル決済ができなくなっていることへの対処だろう。昨年、中国側統計で2401億ドルにも達した中ロ貿易においては、IMF(国際通貨基金)の通貨バスケットに入っている国際通貨・人民元での決済が幅を利かせている。だが、ロシア・ルーブルもベトナム・ドンも国際通貨にはなっていないため、決済通貨の問題が起こってくるのだ。 先週、ロシアとベトナムの関係について、東南アジアを担当する日本外務省関係者に聞いたところ、興味深い見解を示した。 「西側諸国が眉を顰(ひそ)める中で、ベトナムがあえて今回、ロシアを呼び込んだ理由の一つは、『やっかいな隣国』中国を牽制するためと見ている。フィリピンと中国とのセカンド・トーマス礁を巡る衝突を、日々間近で見ているベトナムとしては、南シナ海で中国と同様の衝突を起こしたくない。そうかといって、南シナ海の自国の権益を中国に奪われるわけにはいかない。 そこでベトナムが辿り着いた『知恵』が、ロシアを呼び込むことだった。ロシアとともに油田の開発を行えば、中国は横暴な行為に出てこられないというわけだ。だから今回も、エネルギー協力を前面に押し出し、計11件もの協力文書に調印したのだ。前世紀に日本、フランス、アメリカ、中国など並みいる大国と戦ってきたベトナムは、まさに、竹のようにしなやかな外交を行う」 確かにベトナムは、ロシアと共同で南シナ海の油田開発を行っている。日本経済新聞(2019年2月7日)は、次のように報じている。 〈 ベトナムとロシアの合弁石油会社、ベトソフペトロはベトナム南部の南シナ海で原油生産を開始した。2032年までに10億ドル超の国家収入に貢献するという。ベトナム国営石油会社系のPVEPとロシアの合弁会社であるベトソフペトロがベトナム南部の沖合160キロメートルにある海底油田で原油生産を始めた。近隣にはベトソフペトロが運営する国内最大規模のバクホー油田があり、効率的な生産が可能という。産油量は当初1日当たり230バレル超を見込む。(以下略) 〉 先月には、ベトソフペトロが南シナ海で新たに2層の油田を発見したというニュースにも沸いた。 話を中国に戻すと、プーチン大統領の今回の訪朝及び訪越を、決して手放しで喜んでいるわけではない。 そうかといって、中国にとって最悪なのは、11月にアメリカ大統領選でドナルド・トランプ前大統領が勝利し、米ロが和解に進むことだ。いわゆる「逆ニクソン」(1972年にリチャード・ニクソン政権下で米中が電撃和解したように、米ロが電撃和解すること)である。 そうした中で今回は、できる限り静観し、11月のアメリカ大統領選を待とうということだろう。(連載第733回)
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)