ひょっとして隠れ名車「プリンス・スカイウェイ」は思いっきり影響された? 古き良きアメ車の無双っぷりを感じる「シボレー・ベルエア・ノマドワゴン」
1950年代のアメ車にはワゴンにもテールフィンがあった
かつて日本車が世界を席巻するはるか以前は、日本車の目標というか仮想ライバルはアメ車だったと断言していいでしょう。なんだったら「完コピ作りたかったんじゃね」ってくらいかもしれません。 【画像】シボレー・ベルエア ノマドワゴンのサイドまわりなどの画像を見る というのも、日産と合併する前のプリンスが作った高級バン「スカイウェイ」を見ていて気付いたのですが、1956年のシボレー・ベルエア・ノマドワゴンにそっくりビックリなんですよ。シボレーのフルサイズワゴンといえば、やっぱり高級車。スカイライン同様、上質なワゴンとして送り出したかったスカイウェイとしてはドンズバなスタイルだったのかもしれません。そんなベルエアをあらためてふり返ってみましょう。 1950年代のアメリカで、もっともスタイリッシュなデザインと好評を得ていたのはフォードでもプリマスでもなく、ずばりシボレーだったとされています。たとえば、1956年のベルエアはそれまでの「フェラーリにインスパイアされた」というフロントエンドを、よりワイドで彫りの深いグリルにフェイスリフトされています。 1957年モデルになると、リヤエンドのランプ類をスマートにインテグレーションしており、キャデラックで用いられたアイディアがここでも輝いているというわけです。 ベルエア・ノマドワゴンは、1953年にGMのスタイリングオフィスがデザイナーのハーリー・アールに描かせた2ドアワゴンのレンダリングが発端となり、1955年にコルベットをベースとしたショーカーが発表されています。 とはいえ、1955~57年の生産モデルはリヤのホイールアーチ、Cピラーの形状が違うくらいで、ほとんどアールのデザインを実現。「時代を象徴するアイコニックなモデル」と称されるのも大いに納得です。
当時としてはハイエンドな機能を備えていたベルエア・ノマドワゴン
搭載されたエンジンは283ci(4.6リッター)V8で、220馬力というのがデフォルト。ですが、コルベットと共通オプションで機械式燃料噴射を備えた「スーパーターボファイヤーV8」エンジンも用意されました。6200rpmで283馬力まで強化されたということですが、実際にこのオプションを選んだユーザーはひと握りもいなかったとされています。 ミッションはアメ車でお馴染みのシボレー・パワーグライド2速ATが標準で、これまた加速方向にセッティングされたおかげでコルベットと同等のパフォーマンスだったとする史家もいるほど。 シャシーについても、コイルスプリング独立懸架のフロントサスペンションをはじめ、半楕円リーフスプリング付きライブリヤアクスルや4輪パワー油圧ドラムブレーキなど、当時としてはハイエンドなスペック。それゆえ、当時のご意見番「モータートレンド誌」もノマド・ワゴンのハンドリングを「ワゴンにしては上出来」だとまぁまぁな褒めっぷり。 ちなみに1956年型のベルエア4ドアハードトップはほぼノマドワゴンと同じパッケージでパイクスピークを駆けあがる速度記録を樹立したほどですから、侮りがたいパフォーマンスだったといっても過言ではないでしょう。なお、ノマド・ワゴンは6103台のみの生産とされ、ベルエアシリーズなかでもっとも生産量が少ないモデルとしても知られています。 なるほど、これならプリンスが「目指せベルエア・ノマドワゴン!」と意気込むのもわからないではありません。1959年に登場したスカイウェイを見れば、まつ毛があるようなヘッドライトやワイドグリルで構成されたフロントマスク、リヤにむかってなだらかに下がっていくトリムライン、そしてテールフィンまでもたされているとなれば確信犯と呼ばれても仕方ないでしょう。むしろ、お手本となったノマドワゴンを上手に日本車へとアレンジしているといってもよさそうです。 ともあれ、ノマドワゴンにしても、スカイウェイにしても、1950年代の古き良きクルマの時代に生まれたマスターピースに違いありません。GMと日産には再びこうした名車を作ってもらいたいものですね。
石橋 寛