プーチン大統領は苦渋の判断か ロシアと北朝鮮が新条約…“相互軍事援助”の闇
3)“相互軍事援助”で何が起きる?北朝鮮の派兵はあり得るのか
今後の動きとして気になるのが、今回の条約が現在のウクライナ侵攻にどう関係してくるのかという点だ。北朝鮮が条約に基づいて派兵することはあるのか。 プーチン大統領は20日、ロシアメディアへの会見で、ウクライナ侵攻への北朝鮮の軍事支援について 「私たちはこれを誰にも求めておらず、その必要もない」と、北朝鮮に派兵を求める可能性を否定した。 兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所研究幹事)は、ロシア側の事情を以下のように指摘した。 ロシアはいま、ウクライナ戦争で手いっぱいなので、朝鮮半島有事には関わりたくないというのが本音だ。プーチン大統領は、ウクライナ軍によるドンバス侵攻はロシアへの併合前だったので、ロシア国内が武力侵攻されたわけではないと説明している。つまり、現状では、ロシアにとって第三国からの攻撃には当たらず、今回の条約に基づいて北朝鮮から軍事支援を得る必要はないという主張だ。 ただ、今後欧米製の兵器を用いてウクライナ軍がロシア領内への攻撃を本格化した場合には、条約を適用する可能性があるということも同時に示唆しており、本条約の締結をもって自国内への攻撃を何とか抑制したいという意図を感じる。 北朝鮮側は、ロシアにウクライナ侵攻への派兵を求められた場合、どのように対応するのか。牧野愛博氏(朝日新聞外交専門記者)は、北朝鮮側の事情を以下のように分析した。 金正恩総書記は、特別軍事作戦を全面的に支持すると言っており、ロシア側から求められれば、派兵に踏み切る可能性は非常に高いと思う。共同軍事オペレーションということになれば、かなりの調整が必要になるので簡単ではないが、協力関係の象徴として派兵することで、極東での有事にはロシアの手助けを得られるような形にしたいという思惑は当然持っているはずだ。 北朝鮮としては、いま、強い姿勢に出ざるを得ない状況にある。国内では、若い世代が韓国のドラマや音楽を聴くなどして、韓国寄りになっていくことに強い警戒心を持っている。そのため、韓国を「敵」として位置づけることで、国民の関心を引き離そうと躍起になっているとされる。韓国に対し強い立場でいるために、北朝鮮は中国の後ろ盾を期待しているが、中国としては、対米関係を考慮し慎重になっている。中国の後ろ盾が期待できないのであれば、ロシアを後ろ盾として、韓国を牽制したいというのが、今回の北朝鮮の動きに見るメッセージだと思う。 木内登英氏(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)は、今回の条約による、北朝鮮への中国の影響力低下の可能性を指摘し、以下のように語った。 ロシアの支援により、いままで北朝鮮を一定程度抑えていた中国の北朝鮮への影響力が低下することになれば、例えば北朝鮮の核開発が一段階進むことなどが懸念される。そういった意味で、今回のロシアと北朝鮮による条約は、シンボリックな意味を越えて、日本にとっても大きな脅威となるだろう。 <出演者> 牧野愛博(朝日新聞外交専門記者。政治部、ソウル支局長などの要職を歴任。著書に「金正恩と金与正」。広島大学客員教授。) 兵頭慎治(防衛省防衛研究所研究幹事。専門はロシアの外交と安全保障など。ロシアの軍事、安全保障の情勢を調査・研究) 木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト。2012年、日銀審議委員に。任期5年で金融政策を担う。専門はグローバル経済分析) 「BS朝日 日曜スクープ 2024年6月23日放送分より」
テレビ朝日