生みの親に捨てられ、近所の男性から性虐待…心に傷を負った人気ナレーターが子を持って立ち向かった「虐待連鎖」
両親から受けた虐待は深い心の傷となり、“虐待の世代間連鎖”が起きることも少なくない。合同会社serendipityが2023年に子持ちの20~50歳未満の男女4000人(男女各2000人)を対象に調べた「自身の虐待経験と親子連鎖」に関するアンケートでは、虐待を受けていない男女の約6割が「両親ともに未成年期に虐待を受けていない」と回答。 【写真】「早く終わってほしい」17歳の時、暗闇のなかで実父から受けた行為 対して、自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた男女で「両親ともに未成年期に虐待を受けていない」と回答した人は約1割と少なかった。 だが、そうした現状がある一方、我が子と関わる中で心の傷が癒え、虐待の連鎖を食い止める人もいる。ナレーターや声優、著者として活躍する中村郁さん(@0nqnn3J5BL3RbTj)も、そのひとりだ。
生後、すぐに祖父母と暮らすことに
複雑性PTSDとは虐待やDVなど、長期的なトラウマ体験を機に発症すると言われている精神疾患だ。中村さんの複雑性PTSDには、両親の育児放棄も大きく関係している。 出産後に黄疸などの症状が見られた中村さんは、大きな病院へ入院した。大病が原因なのかわからないが、両親はすでに育てる意思を失っており、退院後は祖父母のもとへ引き取られた。 祖父母は中村さんをかわいがり、「親の愛も受けてほしい」との思いから生後半年の頃、両親のもとへ中村さんを戻す。だが、中村さんは泣きやまず、何も口にしなかった。その姿を見た両親は育てられないと判断。中村さんは、祖父母のもとで育つこととなる。 だが、物心つくと親の愛を求める気持ちが募った。中村さんには兄と姉がいる。2人は両親と暮らしており、夏休みには祖父母宅へ遊びに来た。 なぜ私は一緒に暮らせないのか…。きょうだいの生活が羨ましく感じられ、小学校入学前、中村さんは「親と暮らしたい」と祖父母に打ち明けた。
近所の男性から受けた性加害
祖父母を通じて、両親にその意思を伝えてもらったが、返ってきたのは「受け入れられない」。ショックは大きく、深い悲しみから1週間、部屋から出られなかったという。 「祖父母には大切に育ってもらったので感謝しています。でも、いい子でいないと捨てられるかもしれないという気持ちは消えなかった。子どもの私には、何をしても許されたと思える場所がありませんでした」(中村さん) 傷ついた幼心は、近所に住む男性からの性被害でさらに深い傷を負うことになる。6歳の頃、公園で犬を連れた年配の男性とすれ違う。犬を触らせてもらった中村さんに男性は「来週も会おうね」声をかけた。 「祖母に話すと『本当にその人、大丈夫?』と心配されましたが、優しいおじさんだったし、犬を触りたかったので大丈夫と答えました」 しかし翌週会うと、その男性は中村さんが履いていたスカートの中に手を入れてきた。気持ち悪い。そう思ったが、何をされているのかは分からなかった。そうした行為を繰り返された後、男性から「もっと広いところへ行こう」と言われ、自転車に乗せられた。 着いたのは、田んぼ。膝に乗せられ、「盲腸の場所を知ってる?」と聞かれた。「分からない」と答えると寝転ばされ、下着を脱がされ、陰部を触られた。その行為で自分が何をされてきたのか気づいた中村さんは自宅へ逃げ帰った。男性は「また来週ね」と呟いたことが頭から離れない。 「家を知られていたので、翌週は祖母に頼んで自宅から遠い場所へ遊びに連れて行ってもらいました。心配をしてもらったのに気をつけられなかった自分が悪いと思い、性被害を受けたことは言えませんでした」 その後、男性とは近所のスーパーで偶然会うこともあった。目が合うと笑いかけられ、恐怖が全身を包んだ。できることならーー。でも、そうなってもあの人は幽霊になって家に来るかもしれない。深いトラウマを抱えた中村さんは悪夢にうなされ、電車など公共の場で男性の隣に座ることができなくなった。