日本製鉄、USスチール買収中止命令の無効求め提訴を発表
日本製鉄は6日、バイデン米大統領が出したUSスチール買収計画の中止命令の無効を求めて、バイデン氏らを相手取り、米首都ワシントンの連邦控訴裁判所に提訴したと発表した。命令は適正な手続きが取られておらず、バイデン氏と命令に先立つ審査を担った対米外国投資委員会(CFIUS)による違法な政治介入だとして異議を申し立てた。橋本英二会長が7日午前に記者会見して説明する。 【表】粗鋼生産量、USスチールを買収すると何位に? USスチールと共同で提訴した。発表によると、両社は、バイデン氏が全米鉄鋼労働組合(USW)の支持を得て自身の政治的目的で法の支配を無視し、不適切な影響力を行使したことで、CFIUSは国家安全保障に焦点を当てた誠実な審査をしなかったと主張。買収を公正に審査される正当な機会を奪ったとして、違法な審査と命令を無効にし、審査を改めて行うようCFIUSに命じるよう求めている。 また、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス社▽同社のローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)▽USWのデビッド・マッコール会長の3者が共謀し、米国鉄鋼市場を独占するため買収を阻止しようと反競争的な行為をしているとして、それらの行為の防止と損害賠償を求めて連邦地方裁判所に提訴したと明らかにした。クリーブランド・クリフスはUSスチール買収を巡り日鉄に競り負けた経緯がある。 日鉄とUSスチールは今回の提訴について、共同声明で「違法で不適切な政治的介入、反競争的な妨害を受けずに買収を進める権利を守るために必要なものだ」としている。日鉄の今井正社長は6日公表した年頭あいさつで「米国事業の拡大を決して諦めず、法的権利を守ることも含め、あらゆる対策を追求する」と訴えていた。 USWのマッコール会長は提訴を受け、毎日新聞の取材に「訴状を精査中だが、このような根拠のない主張に対し強く抗弁していく」とコメントし、争う考えを示した。「バイデン政権は、日鉄によるUSスチール買収を阻止することで、米国の重要な利益を保護し、国家安全保障を守り、我が国の重要なサプライチェーン(供給網)を支える国内鉄鋼産業の維持に貢献した」との認識も示した。 バイデン氏は3日発表した声明で「国家安全保障上の懸念がある」と説明し、買収中止命令を出した。両社に30日以内に買収計画を完全かつ恒久的に破棄するよう求めた。 日鉄は2023年12月にUSスチールの買収を発表したが、直後にUSWが反対を表明。その後の大統領選で、トランプ次期大統領が買収阻止を訴え、バイデン氏も実現に難色を示すなど政治問題化した。 買収計画はCFIUSが国家安全保障上の問題がないかを調査していたが、委員の間で見解が割れたため、バイデン氏に判断を一任していた。 買収が実現すれば粗鋼生産量で世界3位の日米連合が誕生する予定だったが、中止命令により、日鉄は戦略の練り直しを迫られている。【道永竜命、大久保渉】