自分の体の管理は「してもらう」ものではなく「自分でする」もの【整体指導士が語る心と体の整え方】
たくさん悩んで、人と話して、きれいな言葉で励まされても、ちっとも心がラクにならないあなたへ。3万人を指導してきた話題の整体指導士・いちい葉子さんが、自分でできる全く新しい「心の整え方」について解説。著書『しんどくなったら、心より先に体を整えよう』(アスコム)から、一部の内容を抜粋してご紹介します。 〈写真〉自分の体の管理は「してもらう」ものではなく「自分でする」もの【整体指導士が語る心と体の整え方】 若い頃は整体とは無縁の生活で、まったく別の仕事をしていましたし、自分の体のケアなんて、考えもしませんでした。そんな私が整体に出会うきっかけとなったのは、母の死でした。できるだけ湿っぽくならないようにお話ししますので、すこしだけ昔話にお付き合いくださいね。 私の母は元気が自慢の人でした。健康診断の結果は毎年良好。いつもアクティブに動き回っていたし、実年齢より10歳は若く見られていたくらいです。ところがある年、急に血尿が出て、検査を受けたところ、大腸がんが見つかりました。しかも、すでにステージ4。いちばん進行した状態です。すぐに手術を受けました。その後も漢方薬を飲んだり、食事療法に取り組んだり、代替医療も試しました。しかし、がんの発覚から1年2ヶ月で、母は帰らぬ人となりました。最愛の家族を失った経験のある人なら、きっとおわかりになるでしょう。母の死後、私は絶え間ない自責と他責の念に苦しめられることになりました。 「毎年健康診断を受けていたはずなのに、どうして早期発見できなかったんだろう」 「お医者さんの言うとおりにしたのに、なんでこんなことになったんだろう」 「あのとき自分が気づいてあげられていたら」 「あのとき父がこうしてくれていたら」 「あのとき夫がもっとサポートしてくれていたら」 そこから私は、異常とも言える熱量で仕事に没頭するようになりました。忙しさに身を投じることで、なにも考えなくて済むようにしたわけですね。みなさんもぜひ、気をつけてください。このように、何かに没頭しすぎる背景には、「つらい現実からの逃避」という側面が潜んでいる場合もあります。私の場合も、ワーカホリック作戦は大失敗でした。心のバランスはますます崩れ、夫とぶつかる機会も増えました。自分では大丈夫なつもりでいたけれど、きっとおかしくなっていた。まだ幼かった娘にも、いろいろと気を遣わせてしまっていたと思います。 そんなあるとき、夫から健康診断をすすめられ、なんと「若年性緑内障」という診断を受けます。ご存じの方も多いと思いますが、緑内障とは眼圧が高くなることで視神経が圧迫され、視野が欠けていく病気です。そして現代医療では、進行を遅らせることはできても、完治させることはできないとされています。当時私は、36歳。心のストレスには自覚がありましたが、まさかこの歳で緑内障になっていたとは、夢にも思いませんでした。 私の場合、眼圧は高くないのに視野欠損があるという状態だったのですが、病院からは通常の眼圧を下げる目薬のほか、視野欠損が進んでいた左目にはさらに追加で眼圧を下げる目薬が処方されました。これが、ほんの1滴さすだけでも、大変な激痛がして(その後調べたら個人差があるようです)。肌につくとシミになると言うし、「このまま激痛に耐えながら、目薬をさす人生が続くのかな」「でも、視力を失いたくはないし……」と不安でいっぱいに。絶対に治るならあのままつづけていたかもしれませんが、その保証もないのになんで耐えなきゃいけない?と、疑問が湧いてきました。 そのことを、当時、花粉症の治療でお世話になっていた漢方院で話してみたところ、その先生は「それは、首ですね」とバッサリ。「ちょっと触りますね」とパッと首に手を当てて施術されました。そのときまで知らなかったのですが、先生は整体にも精通した方だったのです。「目の病気なのに首?いったいどういうことだろう?」私は回りが良くなった首を傾げながら帰宅しました。翌朝、目を覚ましてびっくり仰天!なんと、目がよく見えるんです。私は文字どおり目を疑いました。「なんで!?」とわけがわかりませんでしたが、見え方の変化は、たしかな事実でした。これが、私の整体との出会いです。自分自身の体で、ふしぎな現象を体感したことが「もっと体のことが知りたい」 「自分自身で整体を学んでみたい」と思うきっかけになりました。 ■後悔せず生きるために大切なこと 最愛の母を失って、わかったことがあります。それは、「自分の人生を、自分の手に取り戻す必要がある」ということ。母が亡くなったあと、闘病生活を含めたあわただしい時間について、いろいろな思いが胸を巡りました。ひとつは、自分自身に対しての、「私は母になにもしてあげられなかった」「母の病気に気づいてあげられなかった」という強い後悔。そして、医療者に対しては、「あれだけ毎年健康診断を受けていたのに、なんで見逃してしまったの?」という不信感が芽生えました。こんな思いが生まれてしまったのは、結局「体のことはお医者さんに任せておけば大丈夫」という気持ちがあったからだと思います。 体の不調は健康診断で見つけてもらうもの。だから、健康診断で問題がなければ大丈夫。病気は病院でお医者さんに診てもらうもの。だから、お医者さんの言うとおりにしていたら大丈夫。私は、そう思っていました。きっと、みなさんも同じではないでしょうか?私たちにとって、これはごくふつうで、当たり前の感覚だと思います。 でも、お医者さんに体のすべてを任せることは、自分の人生そのものを他人任せにすることと言っても過言ではありません。いわば、全財産を誰かに預けてギャンブルに賭けるようなもの。人生のすべての選択を占いで決めるようなものです。だから、なにかあったときに「もっとできることがあったんじゃないか」と大きな後悔に襲われる。責められる相手がいるから、他人を恨む感情が大きくなってしまう。そうではなくて、大切なのは、自分自身で決めること、選ぶこと。そのためには、自分で自分の体を管理すること。自分で自分のケアをできるようになることです。それは、「他人任せ」だった人生を、「自分の手に取り戻す」ことを意味しています。 もちろん、医療を否定するつもりはかけらもありません。私自身も私の家族も、必要な治療は受けるし、これからも病院に相談に行くことが幾度となくあるでしょう。でも、体管理の基本は「してもらう」ものではなく、自分で「する」ものだと思うんです。みなさんにもぜひ、「自分で自分の体をケアする」という意識を持ってほしいと思っています。そんな意識の変化はきっと、だれかに任せっきりの人生を捨てて、自信を持って自分の人生を切り拓いていくことにつながっていくはずだから。 ■■この本の著者/いちい 葉子(いちい ようこ)さん 整体指導士。からだデザイン研究所主宰。1968年生まれ、神戸出身。大手化粧品会社で働いた後、母親のがんや自身の不調をきっかけに整体と出会い、心身の回復を経験。その後、整体理論を学び「まくら体操セラピー」を開発し、代々木上原に教室を開設。そのメソッドは口コミで広がり、国内外から多くの受講者が訪れる人気教室に成長。10年以上新規レッスンの予約が2か月待ちという状況が続いており、テレビ番組でも紹介されるなど話題に。朗らかな人柄と寄り添う姿勢が多くの人に勇気を与えている。
ヨガジャーナルオンライン編集部