軍事強化は目立たないように進められ、後戻りできない段階になって争点となる…「武器による平和」卒業を訴える元イスラエル兵士が危惧する九州の未来
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織「ハマス」の戦闘が開始して1年1カ月が過ぎた。ガザ側の死者は4万3000人を上回り、収束は見通せない。鹿児島市でこのほど講演し、反戦を訴えた元イスラエル軍兵士のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県=に実情を聞いた。 【写真】〈別カット〉「武器による平和」から卒業する必要性を訴えるダニー・ネフセタイさん=鹿児島市
-イスラエル軍とハマスの衝突は繰り返されてきた。 「ガザ地区は種子島ほどの面積に人口約220万人が住む世界で最も人口密度の高い地域。イスラエルに物流や人の出入りを制限されており、ハマスはイスラエル領内にゲリラを送り込むなど抵抗を続けてきた。イスラエル軍は報復としてガザを攻撃し、子どもも多く犠牲になっている」 「約1年前のハマスの襲撃で、ガザから30キロ離れた所に住む妹はシェルターで4日間過ごして無事だったが、親友の家族4人は殺された。殺害・拉致された知人は数十人にのぼる。イスラエル軍はハマス壊滅に向けて反撃を続けているが、復讐(ふくしゅう)は復讐を呼び、恨みは世代を超え受け継がれる。なぜパレスチナ人が抵抗するのかを考えないかぎり、本質的に解決しない」 -ネフセタイさんの活動に母国では批判が上がる。 「私自身50歳まで、イスラエル人存続のためパレスチナ人を殺害するのは仕方がないと信じていた。『国のために死ぬのは素晴らしい』という国民の命よりも国家を重んじる教えの下では、敵の命を奪うのは仕方ないこととして済まされる。母国を嫌いなのではなく、平和を応援したいだけ。誰かの人権が奪われる世界で、自分の人権だけが守られることはありえない」
-鹿児島では馬毛島の基地整備など防衛力強化が進む。 「『武器による平和』という考えは改めるべき。中国が尖閣諸島を占領するような限定的な戦争を想定しているだろうが、全面戦争になる可能性もある。米国が助けてくれても、海岸線に並ぶ原発が一つでも狙われれば壊滅的被害が出る」 「戦争を避けるのは政治家の最大の責任。敵基地攻撃能力ではなく、近隣諸国との対話力が重要だ。平和を発展させる具体的政策と構想を示せる政治家を選び、育てる必要がある」 -住民に伝えたいことは。 「急速な要塞(ようさい)化に対し、九州の人々の関心は薄い。軍事力強化は目立たないように進められ、後戻りできない段階になってから争点になる。戦争になれば、九州が最前線に立たされることは避けられないだろう。多くの人が関心を持ち、早期に声を上げるべきだ」 ◇ダニー・ネフセタイ氏 1957年、イスラエル中部の農村部クファー・ヴィトキン出身。高校卒業後、イスラエル空軍で3年間兵役を務めた。アジア旅行を機に、88年、埼玉県に移住し木製家具作家として活動。2008年から反戦、脱原発をテーマに各地で講演を続ける。
南日本新聞 | 鹿児島
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