【社説】80年を越えて 「戦後」を積み重ねていく
新年を一編の詩から始めたい。 昨年92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さんに「戦争と平和」という作品がある。 戦争と平和は結婚している。夫である戦争は、戦争してしまう自分を抑えられず、うんざりしている。2人は語り合う。 <「私を愛していないのね」と妻は夫に言う 「愛していればもっと私を大切にしてくれるはずよ」 「愛しているよ」と夫は答える 「愛しているからこそおまえのために戦っているんだ そういうおまえこそおれを愛しているのかね」> 平和のために戦争する。 人間はそんな詭弁(きべん)を繰り返し、戦いを始めてきた。谷川さんはこの詩とは別に<戦争が終わって平和になるんじゃない/平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ>との言葉を残している。 戦後80年の年を迎えた。先の大戦が終結した1945年以来、日本は平和憲法の下、不戦を貫いてきた。これからも「戦後」を積み重ねていく。読者の皆さんと新年にそう誓いたい。
■核兵器使えば「自滅」
大戦であまたの人が亡くなり、国外でも多大な犠牲を強いた。体験者がつらい経験を語り、不戦の思いが継承されてきた。 象徴的なのは昨年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞したことだ。 被爆者は身をもって核兵器の悲惨さを訴え、世界に警告してきた。現在まで核兵器が使われていないのは被爆者の存在が歯止めをかけてきた証しだ。 授賞式の演説で、代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)は「人類が核兵器で自滅することのないように」と力を込めた。 世界の核弾頭は1万2千発を超える。独裁的指導者は核使用をちらつかせ、核抑止への依存も高まっている。偶発的なことが起きれば、田中さんの言う通り私たちは自滅してしまう。 日本周辺では中国や北朝鮮、ロシアの不穏な動きが続く。今月には米国で自国第一主義を掲げるトランプ氏が大統領に就任し、米中対立が懸念される。 日本がどこかの国と単独で交戦するイメージは非現実的だろう。ただ他国同士が衝突し、日本が巻き込まれる可能性はある。日本政府は外交や経済など多面的な安全保障を築き、戦争そのものを防がなくてはならない。 見渡せば世界で排外主義が広がり、人々の分断は深まっている。民間交流を進め、市民同士で何層にも固い絆を結んでいきたい。