【丸の内Insight】ユニバE社長を追い詰めた弁護士、12年間の闘い
しかし、控訴審で東京高裁は4月、一審の判決を退け、富士本氏に約4349万ドルの支払いを命じる逆転判決を言い渡した。判決の翌日、ユニバEは同氏の社長退任を発表した。
加藤&パートナーズ法律事務所の川上修平弁護士と川岡倫子弁護士が過去の主だった株主代表訴訟を調べたところ、02年から22年までに提起された訴訟44件のうち、役員の責任が認められたものが18件あった。粉飾決算や談合といった証券取引等監視委員会など当局側の事実の認定が前提となっている場合が多い。当局の関与もなく個人株主の訴えが認められ、ましてや会社トップの辞任にまで発展するケースは極めて珍しい。
一連の審理で、富士本氏側は香港へ送金した資金は中国事業の撤退費用で取締役会の決議を経たと主張。しかし、株主側が控訴審で取締役会議事録に関する新たな証拠を提出したため、東京高裁は富士本氏が示した議事録について「偽造の可能性が否定できない」とし、取締役会で決議したとは認められないと断定した。送金が何のために行われたのか真相は明らかにならなかったものの、東京高裁は同社のガバナンス不全を事実上認め、富士本氏の賠償責任を認定した。
勝部氏がユニバEと関わりを持ったのは、12年に同社社員が会社から訴えられた訴訟を担当したことがきっかけだ。同社がフィリピンに送金した4000万ドルを巡り、社員らが独断で行ったとして会社から損害賠償を求められた。会社法を専門にしてきたわけではなかったが、代理人を引き受けることにした。「上場企業が社員に対してそんなことをするのかと憤りを感じた」という。
その後、勝部氏と同社との法廷闘争は12年に及び、抱えた訴訟は5件を超える。「裁判を続けているうちに、会社内の心ある人たちが味方になってくれたのが力になった」と話す。
07年に弁護士登録した勝部氏は、権力に人生をねじ曲げられる市井の人々の側に立ちたいと考え、医療過誤訴訟に強い事務所に入所した。10年に自分の事務所を立ち上げて独立。今は、企業紛争から芸能人の名誉毀損(きそん)訴訟などさまざまな案件を手掛けるようになった。だが、力を持つ者の反対側に立つことが多いのは変わらない。刑事被告人の弁護で無罪を勝ち取ったこともある。