【丸の内Insight】ユニバE社長を追い詰めた弁護士、12年間の闘い
(ブルームバーグ): 皆さん、こんにちは。布施太郎です。今月のニュースレターをお届けします。
ゴールデンウイークに入る直前、久しぶりに裁判原稿を書きました。10年以上前に取材したことがある企業のニュースだっただけに、感慨深い思いでキーボードをたたきました。4月26日に配信したこちらの記事です。
ユニバE社長に約67億円の支払い命令-株主代表訴訟で東京高裁
今回の訴訟でユニバーサルエンターテインメントの株式を保有する個人投資家に訴えられた富士本淳社長(当時)は、創業者で会長だった岡田和生氏の右腕でした。しかし、富士本氏は2017年、岡田会長を退任に追い込み、名実ともにトップの座を手中にしました。その富士本氏が今度は株主の訴えで社長の座を追われるという事態に、何という因果なのかと思ったのです。
株主が会社に損害を与えた取締役の責任を会社に代わって追及するのが株主代表訴訟です。しかし、会社が取締役側に付いた場合、株主の訴えが認められるケースはまれです。株主が会社の内部事情を把握するのは難しく、責任を問う具体的な証拠を示すことが困難だからです。
株主代表訴訟の意義について、コーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい遠藤元一弁護士は「企業価値を上げるという攻めのガバナンスが注目されがちだが、企業の健全性を確保する守りのガバナンスも重要。守りのガバナンスを支える中核の一つが株主代表訴訟だ」と言います。
今日はユニバEと足かけ12年にわたって訴訟を闘い、今回の株主代表訴訟で逆転勝訴をもぎ取った弁護士にスポットを当てます。
力を持つ者の反対側に立つ
「裁判所が個人株主の訴えを認めることがほとんどない中で、判決の意義は大きい」。東京高裁の判決について、原告の個人投資家の代理人を務めた勝部環震弁護士はこう振り返った。
訴訟では、ユニバEが12年5月に香港に送金した約4349万ドル(現在のレートで約68億円)について、適切な手続きを経ずに実行され会社が損害を被ったとして、同社の個人株主が富士本氏に賠償を求めた。裁判では富士本氏が取締役としての善管注意義務や忠実義務に違反したかどうかが争われたが、一審の東京地裁は、同氏の判断や送金について、著しく不合理とは言えないなどとして原告の請求を棄却した。