日本を破綻に導く「英国病」の再来か?平均賃上げ率5%超えも手放しで喜べないワケ
このとき、日本は賃上げを抑制することに成功した。それは、労働組合が企業別になっているため、「無理な賃上げを要請すれば、企業の経営が立ちゆかなくなり、労働者も企業とともに沈没してしまう」との考えに、労働組合が賛同したからだ。日本がオイルショックへの対応で世界の優等生になったのは、このためだ。 ● 賃上げを価格転嫁するなら 労働生産性は向上しない ところが、現在の日本では、賃上げが販売価格に転嫁されることが「デフレからの脱却」であるとして、望ましいと考えられている。 政府も価格転嫁が望ましいとし、それを進めるべきだとしている。本来あるべき姿とまるで逆なことが望ましいとされているのだ。 「物価が上昇しない経済では、さまざまな関係が固定化されてしまって、調整がうまくいかない。しかし、物価が全体として上昇していく中では、そうした調整が容易になるから望ましいのだ」と言われる。 しかし実際には、賃金上昇が物価を引き上げ、それがさらに賃金を引き上げるという悪循環に陥る可能性がある。他方で生産性は上昇しないので、経済が成長しない。
最近の日本経済は、実質GDP成長率がほぼゼロ、ないしはマイナスに近い状況になっている。そして物価が上昇しているのだから、これは文字どおりのスタグフレーションだ。つまり、「スタグネーション(不況)であるのに、インフレーションが収まらない」という最悪の事態だ。この状態がさらに悪化する危険がある。 「賃金を引き上げたのだから、リスキリングをして生産性を上げて欲しい」などという発言をする経営者がいるが、順序をまるで逆に捉えており、誠に心もとない。 繰り返すが、本来、賃上げは、生産性の向上によって実現すべきものだ。だから、「リスキリングで能力を高め、それによって生産性が上がれば、それに見合った賃上げをする」と考えなければならない。 ● 生産性上昇を伴わない賃上げは スタグフレーションを加速させる ただし、実際には、賃上げを販売価格に転嫁するなといっても、止めることはできない。その結果、物価はさらに上昇し、実質賃金が下落し、消費が抑制されて、経済成長率が低下するだろう。 こうした過程を抑えるためには、長期金利が上昇して円高が進み、輸入物価が下落し、消費者物価上昇を打ち消すというプロセスが必要だ。