“伝説のミューズ”、小林麻美がジェントルマンを語る。Vol.2 太宰治「斜陽」に登場する“お母さま”が、私にとってのジェントルウーマン像。
伝説のミューズ、小林麻美が“ジェントルマン”について考える新連載。Vol.2は、彼女が考える“ジェントルな女性像“について語る。彼女の意外な原点とは? 【写真を見る】現在の小林麻美さん。オシャレすぎる私服に注目!
「着るものの嗜好は10代のころからまったく変わっていません」
「ジェントルな女性像とは?」の問いに、小林麻美は迷うことなく、太宰治の「斜陽」に出てくるお母さま(太田静子)と答えた。 戦後の没落貴族を描いた小説で、幼少期に本好きの父親の書棚から、手にとって読み始めたのだと。そのお母さまは落ちぶれていようとも、天爵が備わり、かわいらしく、気品に満ちて描かれていた。彼女の理想とする女性像は、幼くして明解だったことに驚く。早熟である。気品があって、チャーミング。子供たちから日本で最後の貴婦人と称された、物語のお母さま、これが小林麻美の原点だ。ジェントルな女性について彼女は語り始める。 「ジェントルな女性像ってなんだろうって考えると、まず思い浮かぶのは太宰治の『斜陽』に出てくるお母さまです。スープを飲む時、スプーンですくって、お口に対して直角になるように運んで、スプーンの先端から飲むのです。それもひらりとひとさじ、スープを滑り込ませるように。すこぶる礼儀にはずれているのですが、それでもお母さまはかわいらしく、どんな格好をしていようとも品のよさがあるのです。所作とかいでたちというか、『斜陽』のお母さまのように、肘をついて飲んでいたり、どんなにひどい振る舞いでも下品に見えない。そういう人がいたら素敵だなと、子供の頃から思っています。たとえば、隙だらけの⼝元と、隙を⾒せない瞳……。というように、ひとつの顔の中に、正反対があるフランスの女優さんなど、とても不思議で、魅⼒的です。 そんな何気ないムードに潜む品のよさはいろいろな人から、感じ取ってきました。それも一瞬で。特に昔の女優さん、たとえば映画『愛の嵐』でシャーロット・ランプリングが胸をあらわにして歌っても、まるで下品に見えない。また、天性の品格とでもいうのかしら、惹き込まれるなにかを、テレビの画面越しでも、皇室の方々から感じることが多くあります。 この前、80歳になってもずっとミニスカートを履くことをテーマにしている方のSNS を⾒ました。スタイルもよく、脚もきれいで、ミニスカートがとてもお似合い。歳を取ったからって、歳相応の格好ということではなくて、着たい服をおもむくままに着る……。これって、素敵な考えだと思いませんか?『私はまだ79 歳よ』って投稿しているのですが、79歳は、“まだ”79 歳なんですよね。私も見習わないといけないなと刺激を受けました。以来、70代をどう生きようかが私のテーマになったのです。ほんとうにずーっと考えています。服装もおなじで、人と同じではイヤだと生きてきたので、いくつになっても人とは違う自分をどう表現しようかと考えています。『年齢なんて、自分で決めていいのよ』と、言っていたフランスの女優さんがいたけれど、それでいいのかなーって。暗中模索なのでしょうね。年寄りだと自分で言ったら、そこで進化も止まるんでしょうね。 とはいえ、着るものの嗜好は10代のころからまったく変わっていません。基本おなじテイストのものが好きですし、おなじブランドも好きです。振り幅広げるよりも、おなじテイストのバリエーションで、時代時代の変化を楽しみたいタイプかな。いつも選ぶ服はシンプルで、着まわせて、なおかつ、ちょっとした危うさが加わった服になってしまいがちです。そのちょっとした危うさが大事だと思うのです。当たりさわりのない服とかのような服ってつまらないじゃないですか、いくら清楚で上品でも。そういう意味で考えると私にとってはサンローランなのかしら。先日、10年振りにサンローランを買いました。アンソニー・ヴァカレロのサンローランです。私の大好きなサンローランの話はまた次の機会にお話ししますね」
【プロフィール】小林麻美(こばやしあさみ)
1953年生まれ、東京都出身。1972年『初恋のメロディー』で歌手デビュー後、資生堂、パルコなどのCMが話題に。1984年には松任谷由実がプロデュースした『雨音はショパンの調べ』が大ヒット。1991年、妊娠、結婚を機に引退。25年の時を経て、2016年ファッション誌『クウネル』(マガジンハウス)の表紙で復帰。 文・古谷昭弘 写真・藤田一浩 ヘア・松浦美穂(TWIGGY.) メイク・COCO 編集・稲垣邦康(GQ)