知っているようで知らない「眠っている脳と起きている脳」その「大きな違い」
眠っている脳と起きている脳
脳波は、頭の表面から観察される電気活動の揺らぎである。脳波は「波」だ。「波」は私たちの身近に溢れていて、例えば、音も「波」である。音がそうであるように、「波」は周波数と振幅によって、特徴づけられる。音の場合では、周波数が高いと高い音に聞こえ、周波数が低いと低い音に聞こえる。振幅とは、波の大きさであり、音の大きさにあたる。 エイドリアンの実験で示されたように、脳をはたらかせるほど、脳波の凹凸が小さくなる。すなわち振幅の小さい脳波だ。では、眠っているときの脳波はどんなものかというと、非常に特徴的だ。凹凸が大きく、ただゆっくりとした脳波なのである。それは、「周波数が低く、振幅が大きい」脳波と表現することができ、音に喩(たと)えるなら、「低音の大きな音色」だ。眠っているときには、ピアノの鍵盤の左端を強く叩いたときのような低音で勇ましい音色、逆に起きているときには、鍵盤の右端を優しく触ったときのような、高くきらきらとした音色なのだ。 脳波は、一つひとつの神経細胞の活動を捉えているわけではなく、神経細胞の活動の総和だ。脳波が直観と反する不思議な挙動を示すわけは、そこに隠されている。 脳波は、主に「大脳皮質」から発せられる電気信号だ。「大脳皮質」とは、感覚情報の処理を行い、それにもとづいて判断や思考を行っている場所である。私は実験で、死んだマウスの脳を解剖することがあるのだが、大脳皮質は「皮」という字の通り、脳の表面の構造である。 私たちが起きているときには、大脳皮質にある神経細胞が活発に活動し、盛んに情報の処理を行っている。したがって起きているときには、神経発火が盛んに起こる。神経細胞が興奮したり、鎮まったりをくり返しているのだ。ただ、それぞれの神経細胞が活動するタイミングはバラバラであるから、その総和をとってみると、足し算の結果は大きくならない。そのため、起きているときには、小さな振幅(凹凸の少ない)の脳波になる。 一方、眠っているときには、一つひとつの神経細胞がゆっくりと活動し、そしてタイミングを合わせて活動する。興奮したり、鎮まったりのタイミングが揃っているのだ。皆が一斉に活動したとき、その総和はとても大きくなる。したがって、脳波の振幅が大きく(凹凸が大きく)なり、周波数の低い(ゆっくりとした)パターンになる。
金谷 啓之