伐採が決まったワシントンD.C.の“枯れ木桜”に、市民が惜しむ声
米ワシントンD.C.のポトマック河畔の桜並木は、1912年に日本から贈られた苗木を植えたのが始まりだ。以後桜の名所となり、今年は日本より一足早く見頃を迎えていた。しかし防潮堤増強工事のため、今後約150本の桜の木が伐採されることになっている。その中の1本に、枯れ木になりつつも花を咲かせる木があり、最後の姿を見届けようと、多くの人々が見物や撮影に訪れた。 【画像を見る】記念塔をバックに佇む満開の人気桜、スタンピー
桜の木が水没する?浸水被害深刻
ワシントンD.C.の桜のほとんどは、実はポトマック河畔よりも、タイダルベイスンと呼ばれる調整池の周りに植えられている。タイダルベイスンはポトマック川の一部で、上流と下流の端に水門があり、潮の満ち引きにより川の水が流れ込む仕組みだ。 米公共ラジオ網NPRによれば、1日に2回、満潮になると、タイダルベイスン周辺の遊歩道の一部が数センチ浸水。約2500本ある桜の木のなかには、根が水につかっているものもあれば、幹まで浸水しているものもあるという。 10年前も浸水は定期的に起きてはいたが、ここまで頻繁に繰り返されることはなかったという。今では浸水は当たり前で、いつどこまで水が入ってくるかが目下の関心事だ。
地盤沈下に気候変動 桜の犠牲やむなし
タイダルベイスンとその周辺が水没する理由の一つは、地盤沈下だという。この地域は、ポトマック川の底からさらった泥で作られた土地で、過去100年の間に約5フィート(約152cm)沈下している。さらに、気候変動の影響もあり、水位は1フィート(約30cm)以上上昇しているという。 この二つの要因が組み合わさり、現在の防潮堤では対応しきれなくなっている。国立公園局では、タイダルベイスン周辺の防潮堤を再建・かさ上げするプロジェクトの着工を今春終わりに予定しており、158本の桜の木が伐採されることになった。工事完了後は、新たに274本の桜が植えられるという。
枯れ木桜、ついに見納め
工事に伴い伐採されることになった木の中に、「スタンピー」と呼ばれる木がある。毎年春になると、痩せて朽ち果てそうな幹から伸びた数本の枝に、懸命に花を咲かせることで人気の桜だ。政治誌ザ・ヒルによれば、2020年にソーシャルニュースサイト、Redditで、あるユーザーが「私の恋愛と同じぐらい枯れているけど、大好きだ!」と写真を投稿したことで、一躍有名になったという。 スタンピー伐採のニュースを聞いた多くのファンが現地を訪れ、見納めをしたという。「スタンピーと恋に落ちた」というオレゴン州から来た歴史教師は、スタンピーはワシントンD.C.における自分の心の支えであり、忍耐と勇気、そしてかわいらしさの象徴だとNPRに話した。 ソーシャルメディア上でも、トリビュートのためのたくさんの投稿が見られる。ワシントンのNBCニュースによれば、花やお酒を幹に手向ける人もおり、こういった自然発生的なお別れや見送りが、しばらく続いたということだ。
文:山川真智子