うんざり!でも変わらない米国のチップ文化、インフレで負担感増大 奴隷制の名残?二つの最低賃金で置き去りにされた労働者【2023アメリカは今】
ウーバーといった配車サービスのように、運転手と乗客の双方がアプリ上で「振る舞いの良さ」を評価し合う仕組みの影響も大きい。乗客からは「チップ額が評価に影響を与えて、低評価だと肝心なときに車がつかまらないのでは…」と、不安の声も漏れる。 ▽不満の矛先は「何のため?」という不透明さ ただ街で話を聞いて回ると、チップそのものへの拒否感を語る人は思いの外、少なかった。チップを求められる場面が増えたのに対して「誰の、何に対する対価なのかがはっきりしないのはどうしてなの?」と、その不透明さが、人々をいらだたせているようだ。 ワシントンの住宅街で犬の散歩をしていたデボン・パルソンズさん(43)は「接客への感謝の気持ちを示すため、ミネラルウオーターを1本買うのでもチップを1ドル(約140円)ぐらいは渡したいと思っている」と話す。一方で、最近は客にも知らせずにチップ分として料金を上乗せしているケースもあると指摘。接客サービスを受けていないと感じる店では「チップを払うつもりはない」と断っていると話す。
カフェでパソコンを広げて仕事をしていた女性(27)はチップ論争について「よく知っている」としつつも「従業員の懐に入るのであれば、これからもチップ自体は負担を続ける」と話した。 ▽「チップがなければ生活できない」 働く側は、論争をどう見ているのだろうか。 南部バージニア州ヨークタウンのレストランで働くアマンダ・ページさん(38)は「生計を立てるためにチップは不可欠」と言い切る。近所のアパートで暮らしており、家賃と光熱費で毎月4千ドル(約56万円)の固定費がかかる。一方、収入は季節や客の入りによって不安定だ。 「自分が外食する際には必ず代金の20%は上乗せするし、細部まで気を使った良いサービスにはもっと払う。ウエイターとして腕を磨いて30~40%ぐらい上乗せしてもらえるようにがんばりたい」 ページさんが苦しむのはインフレでかさむ生活費だけでなく、最低賃金の差別的な仕組みだ。実は、米国では労働者全般に適用される連邦最低賃金(州など地域ごとに定める基準もある)とは別に、チップ労働者に特化した連邦最低賃金が設けられている。チップが得られれば、他業種と同水準の収入が確保できるとの理屈からだが、それにしてもチップ労働者の最低賃金は低い。