うんざり!でも変わらない米国のチップ文化、インフレで負担感増大 奴隷制の名残?二つの最低賃金で置き去りにされた労働者【2023アメリカは今】
米国で外食時などに支払うチップを巡り、新たな論争が起きている。従来はレストランやホテルでの限られたサービスが対象だったが、新型コロナウイルス対策でセルフレジが普及し、チップの支払いを求められる場面が急増したためだ。消費者からは「うんざり!」との悲鳴が上がる一方で、チップ文化の歴史をひもとくと、奴隷制の時代から続く米国の暗部が浮かび上がる。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) 【※この記事を執筆した金友記者は「バイデノミクスとは何か」について音声で解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索してお聞きください。】 ▽1杯650円のアメリカンコーヒーにため息 首都ワシントンのカフェ。レジで1杯3ドル75セントの持ち帰りコーヒーを注文してタッチパネルで決済する際、チップをいくら加算するかに悩む。商品の料金に加えてチップの額を指定して入力する。 一般的なチップの相場は代金の15~20%とされており、数字の切りの良い75セントを加えてカードで支払った。円建ての給与で暮らす特派員としては為替相場の円安進行の影響も重なり、650円を超える〝高級〟なアメリカンコーヒーを手に、思わずため息が出た。
CNNテレビによると、ファストフード店やカフェの会計でチップが支払われた割合は2022年末で48%となり、コロナ禍前と比べ11ポイント上昇した。生活のいたる場面でチップの支払いを求められるようになった状態は、チップ(TIP)の値上がり(INFLATION)をもじって「チップフレーション」ともやゆされている。 ▽持ち帰りでも表示される「チップ〇%」ボタン 大きな要因とされるのが、決済方法の変化だ。身体的接触を避けるコロナ対策に加え、人手不足に対応した結果として省力化も進み、セルフレジやタッチパネルを導入する店が拡大。空港や野球場の売店、タクシーなど多くの場面で「15%」「20%」「25%」などとチップ加算率が自動表示されるのが日常風景となった。 スマートフォンで事前に支払いを済ませ、店で商品を受け取るだけでもチップの選択ボタンが現れる。支払いに応じない人も当然いるが、「ノーチップのボタンは罪悪感から押しにくい」との声は少なくない。