知られざるヨーロッパのアートシティ、ドイツ・デュッセルドルフを巡る。
中世の絵画では合戦の模様を描いたものも多いが、そのような作品の前には同時代の甲冑が、日本絵画の近くには刀や根付が展示されている。あらゆる種類の作品を時代で串刺しにする手法は現代に至るまで徹底されていて、〈フォルクスワーゲン・ビートル〉と、それをデュッセルドルフで包んだ作品を制作したこともあるクリストの絵画が並べられたりもしている。 またすべての展示物は、作品や作家の有名無名を問わず並列されており、通常は作家名が先に来る作品表示も、作品名を先にしている。
「作家名をそれほど知らない人も多いですし、どの作家、作品が重要かなどと言うことは美術館側が優劣をつけて見せるのではなく、見た人それぞれが自分で感じとってもらえればいい。美術史上の解釈だって今の定説がずっと続く訳ではありません。カラヴァッジョが後に再評価されたように、常に変わって行く可能性があるのですから」(クレマー) 改修前、コレクションはほとんど展示されることなく、壮大なエキシビションが目玉だったと聞いたが、長い間眠っていたコレクションが新たな“編集”で、これだけ新鮮に蘇ることに驚きを禁じ得ない。全部を通して見て行くと、歴史を俯瞰しながら立体的で壮大な絵巻物を旅したような気持ちになる。 さらに美術館の新しい試みは続く。作品を説明するウォールテキスト展示はよくあるが、それが長くなると読みづらいし、すべて見て回るのには大変労力がいる。そこで美術館用のアプリを用意し、携帯電話のカメラで作品を捉えるとより詳しい作品解説が現れる仕組みを導入した。 他にも会場の中に6つの小さな隠し扉があり、中では子供たちがインタラクティブアートを楽しめたりといった工夫がたくさん。「美術館に来て“つまらない”というのが一番いけないと思います」とクレマーは言う。
極めつけは会場内のある扉を開けると現れる伝説のクラブ〈クリームチーズ〉。これは〈デュッセルドルフ芸術アカデミー〉で学んだアーティスト、ギュンター・ユッカーのアイデアにより、ニューヨークのテイストを採りいれて、1967年にヨーロッパで初めて誕生したと言われる、この街に実在したクラブを再現しエキシビジョンの1つとして公開しているのだ。 〈クリームチーズ〉の常連にはボイスやリヒター、電子音楽のパイオニアであるクラフトワークらが名を連ね、ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリン、フランク・ザッパらが訪れたこともあるという。店内の一面の壁はリヒターが描き、ハインツ・マックによるフューチャリスティックなライトアートなど、至るところにアート作品があった。1978年に閉店するや否や、〈クンストパラスト美術館〉は店ごとすべて買い取ることを決め、今回の改修にあたって、美術館内に再現したのだ。