外遊びが減ると低下するのは運動能力だけではない--イノベーション人材の育成に必要な「遊び」
今や、小中学生の2人に1人は近視になる時代。文部科学省によると、子どもが近視になる割合は増加し続け、特に低学年ほど近視になる子どもが増える傾向にあるという。さらに2024年9月には科学界の最高権威である全米科学アカデミーが、「近視を食い止めることは世界的な課題」だと発表している。 しかし、日本ではこの事実はほとんど知られていない。そこに警鐘を鳴らし続けているのが、眼科医の窪田良氏だ。 今回は、『近視は病気です』(東洋経済新報社)の著者である窪田氏と、日本を代表するアスリートであり、「子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会」のメンバーでもある為末大氏が、子どもの外遊びをテーマに4回シリーズで対談する。 【この記事の他の画像を見る】
長年の知り合いで、気心の知れた2人。第2回では、外遊び時間が減ったことで起こる問題について語り合う。 ■外遊び時間が減ると、子どもの運動能力の格差が開く 窪田:日本では近視の子どもが増え続けていて、今や小学6年生の2人に1人は近視になっています。その原因の1つが、外遊びの時間が減ったことにあります。 為末:私は「外あそび推進の会」のメンバーとして、外遊びの現状を調べていますが、子どもの1日の外遊び時間はこの35年で30%以上も減っています。
窪田:その数字は衝撃的ですね。子どもの目の成長には太陽光を浴びることが重要なのですが、それができるのが外遊びです。1日、合計2時間を屋外で過ごすだけで、近視の抑制に効果があるとわかっています。 為末:外遊びが子どもの成長に及ぼす影響は大きいですよね。ほかにもさまざまな問題が起こっています。身体やメンタルへの影響はもちろんですが、一番目立っているのは運動能力の低下です。 窪田:コロナ禍で外出が自粛された時期にも、子どもの運動能力が著しく低下したといわれていますよね。
為末:はい。それから長期的に見て深刻なのが、外遊びの減少でスポーツを始める人が減ってしまう可能性があることです。子ども時代に体を動かすのが好きなことと、大人になってから運動をするかどうかには、非常に相関があるといわれています。ですから、1日の外遊び時間が3割も減ったのは重大なことなのです。 窪田:なるほど。子どもが楽しく体を動かす外遊びは、将来的に運動習慣を持てるかにも関わっていると。 為末:それがゆくゆくは、医療費の増加にも影響していくと思います。運動能力の低下でいうと、今、子どもの運動能力はどんどん差が開いてきています。大谷選手のようなスーパースターが出る一方で、運動が全然できない子が増えて、両極端になっている。