「百花斉放・百家争鳴」最後は弾圧…声を上げられない歴史的背景も 中国・無差別殺傷事件から見えた社会の不満を解説
2024年に中国で起きた無差別殺傷事件。6月に日本人学校のバス停での切りつけ、9月の日本人学校の児童が刺されて死亡した事件は、日本でも大きく報じられた。そして11月には35人が死亡した広東省の事件など、衝撃的な事件が相次いだ。 【映像】無差別殺傷事件…中国で車が暴走してる様子(実際の映像) 無差別殺傷事件の余波、そこから見えてきた課題、経済についてなどをANN中国総局、李志善記者が解説した。
■2024年に起きた無差別殺傷事件を受けて、中国の状況は
━━ 中国国内では無差別殺傷事件を受けて、どういった反応だったのか。 「ここまで大きな衝撃は初めてのことだった。実際に中国の知人も、人混みを避けるなど不安視していた。一時的なものでもあったが、人が集まるイベントやスポーツ活動も禁止されている傾向にあった。また、北京では一部、武警と呼ばれる、軍の指揮下にある部隊も警備していた。一方で、12月に入ってからは、そういった警戒が功を奏しているのか、もしくは情報が出てきていないのか、少し落ち着いているようにも見受けられる」 ━━ 結局、事件の詳細はどこまで分かっているのか。 「犯人の動機に繋がっている情報は、ほとんどない。年齢を見ても、若者より少し中高年の容疑者が多い印象はあるが、動機についてはほぼ発表がない。 一方で、データを見ると興味深いことが分かってきた。事件関連のSNSは、すぐに消されていくが、“社会への報復”というワードは広がっている。検索エンジンを見てみると、事件が起きるたびに“社会への報復”という検索が急増している。それだけ人々は、事件の背景に社会への不満があるのではないかと感じている。 また最近、日本ではSNSで“無敵の人”がピックアップされるが、中国では『“献忠(けんちゅう)”が現れた』と言われている。“献忠”とは、明の時代の末期を生きた人物・張献忠(ちょうけんちゅう)のことだ。今の四川省あたりを占領して国を名乗ったが、言うことを聞かない人を片っ端に虐殺して恐怖に陥れたと言われている。その様子が“社会への報復”と似ていることから、無差別殺傷事件が起きると『献忠が現れた』とささやかれている」 ━━ 事件の動機はわからないが、少なくとも市民の側の多くは社会的報復と受け止めた。そうすると、中国ではそれだけ社会に対しての不満を、皆が持っていることなのか。 「その裏返しとも言えると思う。実際に今取り調べをしているのも、情報を持っているのも当局だ。その中で、こうした事件が頻発していた後、当局の中で、“八失人員(はちしつじんいん)”という、『八つのものを失った人たち』のキーワードを持った人をあぶり出す動きが見られた。例えば、投資に失敗した、失業して収入を失った、生活に挫折して失意の人など、こうした人たちをリストアップする動きが出ている。 他にも、“三低三少”というものがある。三低は、所得、社会的地位、社会的人望が低いこと。三少は、人との付き合い、社会と触れ合う機会、不満を口にできる機会が少ないことだ。周辺にこうした人たちがいないかピックアップしていて、つまり、こうした人たちが危険だと見ている証拠だと思う。 しかし、こういう人たちをリストアップすることだけが、根本的な解決に繋がるのかは疑問視する声もたくさん出ている。例えば、失業保険やセーフティーネットを強化する方向も必要だ。一方で、都市と地方との違いなどもあり、細かい対処が必要だという声も上がってきている」